Kuuta

スリー・ビルボードのKuutaのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.1
子供が突然殺されたり、本当の自分を抑圧したり。社会の理不尽に対し、人はつい拳を振り上げてしまう。その握り締めた拳を、どう解けば良いのか。

自分の正義が持つ脆さを自覚した時、垣間見える融和の可能性。悲劇の中をグルグルしながらも、文字通り「看板の裏側」の希望が見えてくる展開が面白い。3枚の看板が連なる様が、まさしく激情の連鎖を思わせる。

怒りの炎を生んだ酒のボトルがレストランでは…。その姿勢はオレンジジュースの場面ともリンクしており…。こうした積み重ねを経て、次第に赦しの連鎖へとシフトしていく。詰め将棋の様な脚本が、今作最大の魅力と言えるだろう(あまりに優等生なバランスで練られているので、鼻に付くという意見も正直ちょっと分かる)。

赤は映画のキーカラー。怒りを受け止める広告屋の名前はRed。冒頭に流れるアイルランド民謡The last rose of summerは一人取り残されながらも赤く燃えたぎるミルドレッドの象徴。彼女が看板近くに植える花の色の変化。

他者への強い攻撃性の裏には自分自身の弱さや、社会に対する不安・不満がある。ネット炎上の風刺にもなっていると思った。

19歳の子の会話や、広告屋の優しさはコメディ風。暴力の連鎖というアメリカ的テーマに人種、性差別に教会の腐敗、イラク戦争まで挟み込んでいる。

差別主義者ディクソンの扱いが甘すぎるという批判が本国で一部上がっているそう。舞台であるミズーリは黒人青年が射殺された事件で数年前に大揉めした地域でもあり、こうした意見が出るのも理解はできる。

ただ今作は、娘を失った母親を悲劇のヒロインとして描かないような、善悪二元論から抜け出した世界観であり、差別主義者だって骨の髄まで悪なのか、という曖昧さに帰着していく展開は作品のテーマ的に仕方ないんじゃないかと思った。

張り詰めた虚勢から漏れる人間臭さを、フランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルが好演。

エンディング曲"Buckskin Stallion Blues"の一節。
If I had a buckskin stallion
I'd tame him down and ride away
If I had your love forever
Sail into the light of day
怒りの馬を優しく鎮めながら、陽の中を進んでいく。82点。
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