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ブリグズビー・ベアのMikiMickleのレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.0
25歳のジェームズ。両親と共にシェルターに暮らしている。
毎週届く、『ブリグズビーベア』という着ぐるみ教育ビデオを楽しみにし、その研究に余念が無い。外のファン達とチャットするのが楽しみ。
時々、外の見えるドームに出ては、砂漠を眺める。それが彼の全てだった。

ある時、突然訪れた警察によって両親が逮捕される。両親以外の人と接するのも初めてだった。
実は、両親だと思ってきた2人は誘拐犯。ジェームズは25年間、監禁されていたのだった。

初めて見る外の世界。実の両親と妹の元へ返されるが、ジェームズにとっては違和感だらけだった。
何よりもショックだったのは新しいブリグズビーベアのビデオが届けられなかった事……
そして、カウンセラー(クレア・デインズ)から告げられたのは、ブリグズビーベアは偽の父親テッド(マーク・ハミル)がジェームズの為だけに作っていたという事だった……
ジェームズは自らの手で、ブリグズビーベアの話を完結させようと決める。

そんな特異な存在であるジェームズと彼の全てであるブリグズビーベアの世界は、徐々に周りの人々を取り込んでいく…………


見ている間、何度涙を流したか……
それは、悲しい涙では決してなく、笑顔での涙。

想像して欲しい。生まれてきてから初めて外の世界を知った25歳を。“犯罪者”が作り上げた“ブリグズビーベア”の仮想の世界が全てだった男が、不意に現実社会に出てきたという事を。
実の両親との空白の時間はそう簡単には埋められるものではない。
自分は自分でいいのかと、自分はなんだったのかと思うだろう。

そんな男が、唯一見つけた、映画作りという世界。
その大事な過程とラストの、その大きな大きな意味。

ちょっぴり不可思議な白昼夢のようなゆったりとした空気の中で、“普通”の生活での“異質”さは、たくさんの暖かさを与えてくれる。

80年代の子供向け番組とSF映画への愛あるオマージュ。愛おしいユーモアあるストーリー。変わり者同士の友情。彼の味方になる人々。
それぞれが上手く絡み合い、“異質さ”がキュートで愛おしいものへとなる。


そして、なんと言っても、ものづくりへの純粋な愛。下手でもなんでも作品を作りたいという彼の気持ちに胸を刺される……

私は、映画作り愛を感じられる映画というものが好きだ。『ぼくとアールと彼女のさよなら』とか『僕らのミライへ逆回転』とか。映画作りではないけど『グッバイ・サマー』とか。音楽で言えば『DOPE』とか『シング・ストリート』とか……愛するものと、それを作りたいという切望と熱意と、同士というものにいつも胸が熱くなる。
あとから知ったけれど、監督や脚本や主演やらやらのメンバーは幼なじみであったそうで、幼い時から映像を作り上げてきたそうだ。
正直、心から羨ましくて、微笑ましく思う。余談だけれども、私がこういった映画が好きなのは、多分過去の自分を投影するからなんだと思う。したくても出来なかった映画作りや、機会があったのに臆病になった音楽作りを投影して、心から応援したくなるんだと思う。

例え“普通”ではなくても自分の大事なものを突き詰める事の大事さを感じさせてくれた、キュートで切なく、愛おしい愛おしい素敵な作品だった。
私もブリグズビーベアのTシャツが着たい。偽の父親が作ったビデオを全部見てみたい。そして、ジェームズの仲間入りして映画を作りたい。心底、そう思った。
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