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ブリグズビー・ベアのTKSDのネタバレレビュー・内容・結末

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

ブッチギリで今年(2018年)のベスト。オールタイムベストになるかもしれません。
上映時間の延べ3分の2ぐらいすすり泣いておりました。

泣かせようとしてこないところに余計に涙。

主人公の残酷な運命に泣き、主人公の純粋さに泣き、周囲との軋轢に泣き、周囲の優しさに泣く。どんだけ泣くのか。

冒頭から、映画によってはクライマックスシーンになるような驚愕の事態。この時点で既に涙腺が壊れそうでした。

この主人公はこれからどうなるのか。
主人公の人生を盗んだ最悪の誘拐犯達に植え付けられた「ブリグズビーベア」の世界しか持っていない青年が、どうやってリアルな世界と折り合いをつけるのか。もう目が離せませんでした。

悲しいのは、その最悪の誘拐犯が植え付けた「ブリグズビーベア」という世界が、必ずしも非常識な世界とは言えないどころか、人を惹きつけるものであったこと。

誘拐犯達はおぞましい罪を犯しました。
けれど、確かな愛情があった。決して許されないけれど、偽りのない愛情でした。
ゆえに、やるせない気持ちになりました。

人生を盗んだ犯罪者達が主人公に与えた世界は、主人公のすべてであって、主人公が心の拠り所とするのはむしろ当然です。

主人公の気持ちも分かるし、あまりにも長い間息子を奪われていた両親の気持ちも分かるし、ただただやるせない。

主人公は精一杯リアルな世界に順応しようとしますが、彼の心に深く根ざしたブリグズリーベアの世界は捨てられずにいる。当然だと思います。人生の全てだと思っていたものをある日突然捨てろと言われて捨てられるはずはないのですから。

さりとて、主人公は一方的に自分の世界を周囲に押し付けるのではなく、譲れない一線はありつつも何とか順応しようとする。その姿にも涙。

紆余曲折を経て、苦しみぬいて、両親は忌まわしい犯罪の象徴であるブリグズビーベアの世界を受け入れる。たとえ人生を盗んだ卑劣な犯罪者に植え付けられた世界であっても、それは主人公が大切にしている世界であって、主人公の一部だから。キレイごとかもしれないけど、涙せずにはいられませんでした。

これに応えるかのように、主人公は自分のすべてであったブリグズビーベアに感謝し、自らが作った映画で彼にひとまずの別れを告げる。

とてつもなくヘビーなテーマを、優しさと赦しとユーモアで軽やかに描き切った傑作。
俺はおそらく、この先何度もこの映画を見返すでしょう。

使い方も含めて、サントラのクオリティが本当に素晴らしいので、興味のある方はぜひ🎧

※ 時々、「ジェームズのまわりの人たちが優しすぎる。現実ではこんなにうまくいかない。」という意見を聞きます。
それは確かにその通りで、ジェームズが悪意に満ちた人に出会ってしまうという可能性は否定できません。
一方で、もしジェームズが自分(と自分の親しい人達)がいるいつもの日常世界に現れたとしたらどうでしょうか。
おそらく、彼を迫害しようという人はそうそういないのではないでしょうか。
自分の身近な世界に置き換えてみると、本作に出てくる周囲の人々は十分にリアルな存在であると感じました。

※誰もが優しく見えるのは、ジェームズ含め誰もが誠実に精一杯向き合っているからこそなのかもしれないと思いました。

※見れば見るほど演者の凄さが際立つように感じました。警部が慎重に思いやりをもってジェームズに向き合う所、実の父親が息子との再会を心から喜びながらどこか空回りしてしまう所、空回りしてる親を見るのが耐えられない年頃の娘さん、主人公の境遇よりも主人公の持つ世界の強さに共感する親友…素晴らしいアンサンブルでした。

※映画について「誰でも作れるの?」というセリフでなぜかまた涙腺が緩んでしまいました。
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