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ブリグズビー・ベアのmarikoのネタバレレビュー・内容・結末

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

25歳までシェルターに隔離されて育った主人公ジェームズが、突然警察に救い出され元の家族のもとに帰される。ジェームズはシェルターの中でずっと「ブリグズビー・ベア」というアニメを見て育つが、それは偽の父親が作りジェームズだけが観ていたアニメだった。父親が逮捕された今、もうブリグズビー・ベアを観ることができない、ジェームズは自ら続編を作ることを決意する。

この物語のすごいところは、ジェームズが社会に適応することをハッピーエンドとせず、自らの歪みをそのままに生きることが肯定されていく点、ジェームズに巻き込まれてブリグズビー・ベアのファンが瞬く間に増えていくと同時に周りの大人達が次々に理解を示し協力し始める点だ。そうしなければ話は進まないわけだが、展開があまりにも都合が良すぎる。しかしこの物語はそれでいいと思う。
本来社会で生きていくために、多くの人は自分の理念を断念しなければならない、あらゆる失望があり妥協があり、折り合いをつけて生きている。ましてジェームズのような人間であれば、本来なら諦めなければいけない幾多もの思いがある。それを彼は手放さず、しかも周りの理解まで得て成功する。社会から溢れ落ちてしまうような人間にとって、これほどのハッピーエンドは無いだろう。だからこの映画を見ている間は幸福感で涙が止まらず、ずっと良い気分でいられる。そして映画館を出て余韻が引いてきた頃、現実が戻ってきて絶望に押しつぶされそうになる。

この映画には決して、好きを貫けば報われる、というメッセージがあるとは思えない。むしろこんな奇跡は映画でしか起きないという逆説的な皮肉ですらあると思う
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