ナガエ

少女は夜明けに夢をみる/ 夜明けの夢のナガエのレビュー・感想・評価

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基本的に僕は、観ようとしている映画について、ほぼ情報を知らないまま観に行く。

冒頭からしばらくの間、僕はこの映画をフィクションだと思っていた。当然、フィクションだと思った。そう思った理由は後で書くが、5分ぐらい見て、あぁ、これはドキュメンタリーなのか、と分かった。

当然フィクションである、と感じた理由は、いくつかある。
まず、これは全編に渡ってであるが、基本的な状況説明がまったくなされない。どこで撮影しているのか、撮影している人物がどういう背景を持つのか。ドキュメンタリー映画というのは、その辺りの説明から入ることが多いように思う。しかしこの映画は、そういう始まり方をしない。だから僕は、「なるほど、ストーリーを描く過程で状況設定が少しずつ明かされていくのだろう」と、フィクションだと感じたのだ。

もうひとつは、カット割りがフィクションっぽかったからだ。というか、ドキュメンタリーのカット割りっぽくなかった。ドキュメンタリー映画というのは多くの場合、カメラ一台で撮っている。つまり、ある場面における切り取り方は一つしかない。カメラが一台で、役者に演技を繰り返させるわけではないのだから、当然だ。でもこの映画の場合、例えば「AさんとBさんが喋ってる場面」を撮ったシーンの後、「AさんとBさんのやり取りに笑い声を上げる少女たち」のシーンにすぐ切り替わったりする。カメラが一台しかなければ、ドキュメンタリーでこんなカット割りはできない。まあ、不可能ということはないけど。「笑い声を上げる少女たち」のシーンを別で撮影し、あたかも同じシーンであるかのように繋げればいい。しかしドキュメンタリー映画の作法として、そんな作り方が許容されるのか、という疑問は残る。

そんなわけで、冒頭から僕は「当然フィクションだ」と感じたのだが、ある瞬間に、あぁそうか、これはドキュメンタリーなのか、と気づいた。しかし、やはりカット割り的には、ドキュメンタリー映画っぽくない場面が多々あり、そこは僕の中で、違和感として残った。

状況設定は映画の最後までほぼなされないので、具体的なことはほぼ分からないが、映画鑑賞後にポスターを見たら、「イランの更生施設」と書かれていた。
映画の冒頭は、刑務所かと思った。少女が両手の指紋を取られており、外から鍵の掛かる「隔離区域」という名の部屋に入れられる。映画を観ていくと、何らかの犯罪を行った少女たちが連れてこられる場所だ、ということが分かる。恐らく、日本で言う「少年院」のような場所なのだろう。ただし、収容されているのは、全員少女である。
イランにおいては、男と女では得られる権利に大きな差がある。
彼女たちに、宗教家(だったと思う)が権利について教えに来る場面がある。そこで少女たちはその宗教家に様々な質問を繰り出す。
「男と女の命の重さはどうして違うんですか?」
「男親が子供を殺しても罪に問われないのは何故ですか?」
宗教家は、その問いに答えることが出来ない。

少女たちは、望んで罪を犯しているわけではない。どうしようもない境遇に置かれている中で、生き延びるために仕方なくした決断だったのだ。
娘に売春をさせた金でドラッグを買う父親。性的暴行を加えてくる叔父。父親は薬物依存症、母親はうつ病、自身もうつ病の薬を飲んでいる、という少女もいた。

父親を殺した少女も登場する。姉が父親を殺すことを提案し、母と彼女が同意した、と語る。この更生施設に、殺人を犯した者がどの程度収容されているのか分からないが、彼女の発言から、稀であることが分かる。彼女は、自分の置かれた境遇については、周りの少女たちと話をし、共感できるが、それでも、父親を殺したことは話しにくい、と語る。

彼女は、父親を殺さなければ自分が家を出ることになっていたし、そうなればドラッグに手を出していただろう、だから、ここにいる少女たちの気持ちはよく分かる、と言っていた。

収容施設から釈放される少女もいる。しかし、彼女たちの表情は決して明るくない。

ある少女は、監督から「釈放おめでとう」と声を掛けられると、「お悔やみを、よ」と返す。「酷い家族だから」「私を鎖で縛るかもね」と言う。

別の少女は、「ここを出て、また路上暮らしに戻るのかと思うと変になりそう」と涙を流す。この少女は、先の宗教家に、「生まれたのは私のせいですか?」と泣きながら訴えた。

収容施設側の対応も、多くはないが描かれる。その中で非常に印象的だった場面がある。

ある少女が釈放されることになった場面。そこで施設の職員の女性はこんなことを言う。

【ここの外のことは、私たちには責任はないの。たとえあなたが自殺してもね】

この発言を、どういうシチュエーションでしたのか、その背景まできちんとは分からない。文脈次第では、少女を励ますような発言だった、という可能性もある。しかし、やはりこの発言単体で見ると、少女側にあまりにも厳しいものに感じられる。

ある少女が、中盤ぐらいで、「将来の夢は?」と聞かれて「死ぬこと」と答える場面がある。同じ少女が別の場面で、まったく同じ質問に別の答えを返す。そういう、希望を感じさせる場面もあって、良かったと思う。
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