Violet

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のVioletのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

「トガニ」とかもそうだけど、実話に基づいた韓国映画って本当に衝撃を受ける。こんなことが実際にあったこともそうだし、わたしなんかはこの映画を見るまで「光州事件」を知らなかったから、「こんな大変な事件を知らなかったなんて」と愕然としてしまう。

物語の展開も面白いし、個々のキャラクターも立っていて、とてもよくできた映画だと思う。これは高評価に納得。

ソン・ガンホ演じるタクシー運転手のキムマンソプが「韓国に住んでることは幸せなんだぞ」と学生運動に対しても反発した姿勢をとっているところから物語ははじまる。同じ韓国に住んでいても、ソウル市民には光州で起きているおぞましい出来事が伝わっていない。そこから真実を目の当たりにしたときのマンソプの心情の変化が画面越しにひしひしと伝わってきて見ていて苦しくなった。
マンソプがソウルに戻ったあとにUターンするシーンは胸が熱くなった。今まで当たり前のように食べていた定食に対しても、当たり前のように聞いていた学生運動のニュースに対しても、真実を知った今それらを今まで通りに受け取れなくなった。ソン・ガンホの演技っていつも魅力される...😭😭

事実を白日の元に晒すため、命をかけて軍に立ち向かう武器も持たない市民。ここらへんはフィクションも入っているかもしれないけれど、やっぱりジェシクが殺されたシーンは涙が止まらなかった。昨日まで歌を歌ってふざけたり、光州のタクシー運転手・テスルの弟に似ているとケラケラ笑いながら話していたのに...。

軍による発砲シーン。白旗を挙げて仲間を助けようとしただけで銃を向けられ殺されてしまう市民。遺体が多すぎて棺が足りない病院。大切な人を失った人々の悲痛な叫び。考えられないような非道な事件が起こっていたことを忘れてはいけない。繰り返してはいけない。

ドイツ人記者のユルゲン・ヒンツペーターさん、タクシー運転手のキム・サボクさん、そして最後まで戦い抜いた勇敢な市民の方々に、心から拍手を送りたい。

「ペパーミント・キャンディ」という映画では、本作とは逆転の視点で、市民を守るために警察官になったが市民を射殺しなければならくなった男性の苦悩が描かれているとのこと。こちらの作品も見てみたい。

▼ふたりの再会
映画でも語られていたように、ヒンツペーター記者はタクシー運転手のキム・サボクさんとの再会を願っていたが、ついに彼に再会できずに2016年息をひきとった。

しかしその後の本作公開後、キム・サボクさんの息子が現れ、事の全容が明らかになった。

キム・サボクさんは1970年代初期からソウルパレスホテルでタクシーを走らせていて、外国人のお客さんを予約制で受けていたらしい(英語も堪能で外国からの観光客は頻繁にキム・サボクさんの運転するタクシーを利用していたとのこと)。そのため、偶然お客さんを乗せることはなかったという。また、当時の光州の状況をキム・サボクさんは既に把握しており、ヒンツペーター記者とは同志的な関係で動いていたとのこと。
映画の製作チームが必死にキム・サボクさんを探したが、彼はホテルとの契約をした コールドライバーであったため当時の“タクシー運転手名簿 ” などには “キム・サボク”という名前が載っていなかったのだ。つまり彼はヒンツペーター記者に偽名を教えたわけではなかったのだ。

息子さんの話によると、キム・サボクさんは光州事件以降トラウマに苦しめられ、事件から4年半後の1984年12月に享年54歳で肝臓癌のためお亡くなりになった。

参考
・https://www.donga.com/jp/article/all/20181225/1589153/1/映画「タクシー運転手」の実在モデル二人、5・18墓地で40年ぶり再会へ
・http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30571.html

▼ 光州事件とは
1980年5月、全斗煥軍政下の光州で起きた民主化を求める運動と軍事政権による弾圧のこと。韓国では「5・18光州民主化運動」と呼ばれている。

1979年10月26日、朴正煕大統領が暗殺され、18年にわたる軍事独裁政権が幕を下ろした。しかし12月12日、軍部の一部勢力が粛軍クーデターで事実上、政権の実権を握ると、軍事政権の復活を警戒する学生らの民主化デモは韓国全土に拡大した。

1980年5月17日、軍の実権を握っていた全斗煥(チョン・ドゥファン)は、非常戒厳令を全国に拡大。金大中や金泳三ら有力政治家を連行した。民主化を求める学生デモはさらに激化。南部の光州では、空挺部隊が投入され、市民への発砲などで多くの死者、行方不明者が出た。

5月27日、戒厳軍は市内を制圧した。光州市内の電話がこの日まで通じなくなり、メディアも情報統制されたため、光州市内で何が起きていたのかの真相は、長く明らかになることはなかった。

2003年1月に韓国政府が発表した「光州有功者」数によると、死者207人、負傷者2392人、その他の被害者が987人、2005年5月に5・18遺族会などの市民団体が発表した調査結果では、けがや後遺症による死亡もふくめ死者は606人に達する。

参考
・https://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-05-04/20060504faq12_01_0.html
・https://m.huffingtonpost.jp/2015/05/19/kwangju-35th-aniv_n_7311100.html
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