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カオス・ウォーキングのnetfilmsのレビュー・感想・評価

カオス・ウォーキング(2021年製作の映画)
3.6
 不思議な映画だ。ダグ・リーマンの映画だけに『ボーン・アイデンティティー』のようにひたすら「逃げる映画」なのは間違いないのだが、追手から逃げる物語の中にSFやボーイ・ミーツ・ガールな意匠も垣間見える。隣の村までは急勾配となる険しい森を抜けねばならず、SFというよりも構造的には西部劇に近い。これはそもそもいつの時代の作品なのだろうか?宇宙船の中のシステムの映像は近未来の意匠ながら、村人たちの服装は18~19世紀の話でもおかしくない。舞台は西暦2257年らしい。女たちはあるエイリアンの襲来により滅ぼされ、村にはむさい男だけしか存在しない。つまりこの村では生殖本能が働かず、従って子宝も新たに生まれないため、若者のトッド(トム・ホランド)はひたすら家族にこき使われている。彼は母親以外の女性を一度も見たことがないのだから、初めて女性(デイジー・リドリー)に出会った時、それが例え宇宙人であったとしてもすぐに恋心を持つのも無理もない話だ。ヴァイオラという名前の女性は宇宙船の故障による墜落でこの地へとやって来る。トッドとヴィオラの出会いは2人の距離は少しあるがロマンチックに描かれる。

 とはいえ「ノイズ」と呼ばれる脳内で考えた欲望が言葉として出て来る設定はあまり映画的ではないし、慣れるまでに非常に時間がかかった。「ノイズ」とは欲望であり、邪念でもあるし、相手に隠したい思いさえも詳らかにしてしまうのだが、信じられないことにヴァイオラには一切の「ノイズ」がない。デイジー・リドリーの逃げ惑いながら、時には勇敢に立ち向かう姿に私は図らずも『スター・ウォーズ』シリーズのEP7~9のレイを重ねてしまう。意図せず「ニュー・ワールド」へやって来た彼女は一転して追われる身となり、プレンティス首長(マッツ・ミケルセン)率いる男どもの群れに執拗に付け狙われる。彼らが何を求めて執拗に追ってくるのかはわからないが、同じ村に住んでいたはずのトッドも彼女を庇ったことで同じく賞金首となるのだ。狭いこの地で段々と年老いて行くだけだったトッドの人生はその瞬間、運命の女とのロマンチックな逃避行となり、2人にとって大切なイニシエーションの主題をも纏う。心底尊敬していた首長は「闇落ち」し、まるでダースベイダーのような強権を振るうし、それ故芽生えたオイディプスコンプレックスをも克服しようとする。つまりここに大国アメリカの病める病巣という永遠のテーマが息づくのだ。クライマックスのビジュアルはなかなかに壮観で、フロンティア精神を持った入植者たちの約束の地ともなり得る。単発とは言わず、是非とも続編にも期待する。
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