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ヒューマン・フロー 大地漂流のkanaのレビュー・感想・評価

2.9
現代美術家としてのアイ・ウェイウェイの作品には感銘を受けてきたし、とても尊敬しているけれど、この映画にはどうしても違和感、さらには不快感さえ覚えるような見逃すことができない点が幾つかあった。一番は難民の男性とアイ・ウェイウェイが互いのパスポートを交換するシーンである。一緒に観に行った難民支援に関わる友人も、パスポートは冗談でも交換していいものではないし、それが現に問題になっていると教えてくれた。わたしが感じた違和感は、アイ・ウェイウェイが難民の男性のテントの代わりに自身のベルリンのスタジオを差し出すと述べたところだった。幾ら冗談であっても、難民男性と、アイ・ウェイウェイの間にはとてつもないパワーギャップがあるのであって、それを自覚せずに本人が映像に出てきてしまうのはどういうことだろうと考えざるを得なかった。また突如現れる遺体の映像も、それこそそこに脚注を入れなければどのような状況で誰が犠牲になったのか観客はまったく理解できないし、その解釈は観客に委ねるべきところではない。
全体として横に広がっていく展開で、どこか教科書を辿るようだった。難民を受け入れた社会のその後の反応、難民がどのようにコミュニティに定住していくのか、もっと掘り下げてほしい点がたくさんあった。この映像だけでは、展望が見えてこない。
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