都部

バッド・ジーニアス 危険な天才たちの都部のレビュー・感想・評価

3.7
社会派/エンタメの兼ね合いが巧みな作品で、背徳心がスリルとして変換されるカンニングを巧みな編集と演出によりクライムムービーの一級品の題材へと昇華させながら、社会的欠陥の渦中に立たされる個人の揺らぎを過不足なく映画の中に落とし込んでいる。

ともすればカンニングの露呈が人生に齎すのは破滅であり『幾ら積まれても割に合わない』のだけれど、それを正義感や倫理観に任せて断れる境遇にはないリンの物語として本作は一貫している。
段階的に規模が拡大していくカンニング計画に反比例するように物語の爽快性は意図的に薄れていき、友人関係が利用するもの/されるものへと変化したこと──そしてそれから離れない現実の不平不満に対する葛藤。それを表現力豊かに演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジンの演技が作品の完成度を底上げしているのは間違いないだろう。

貧富差による社会的な不平等がカンニングのみならず作品の端々で語られる構図が連続するのは痛ましさがあり、それに晒される、リンと同じ立場に存在する男子生徒バンクの変化による決定的な離別が悲しみを伴った力強い再起に繋がるラストも鮮やかで素晴らしいと思う。現実と社会は覆らないが、そうした事件を通した個人的成長に焦点を当てたオチというのは目にすると大変心地が良いものだから。

テストのカンニングをある種 競技的にスリリングに見せる洒脱な編集/演出の引き出しも感心させられるポイントで、社会的命題を踏まえて奥行きを確保しながらハラハラドキドキの物語の推進力を維持し続けることに成功しているのは簡単なことではない。
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