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バッド・ジーニアス 危険な天才たちのsatoshiのレビュー・感想・評価

4.0
 タイ発のサスペンス映画。本国では大ヒットをしているそうです。私はアフター6ジャンクションで取り上げられていたことで存在を知って興味を持ち、10月にちょうど近隣の映画館で上映開始したので鑑賞しました。私が観た時は、都内の映画館では満員が続いているそうですが、私が観た回はガラガラでしたよ。やっぱ郊外っていいなぁ。と、いう話は置いといて、観てみると、本作は確かにとても面白い作品でした。

 サスペンスといっても本作で描かれるのは「カンニング」。そう、学校のテストで隣に座ってる奴の答案を見るというアレです。さすがにこんなベタな事はせず、登場人物たちは指の音でマークの記号を教える、答案を書いた消しゴムを上履きに入れ、後ろの友人にスライドさせる等、あの手この手でカンニングをします。ただ、それでも絵的には地味です。本作が素晴らしい点は、この一見地味な行為を、演出によって緊張感あるサスペンスに仕立てている点です。

 例えば、カンニングの際に教師にそれがバレるかどうか、途中に起きたハプニングを制限時間内にどう解決するか等、地味なカンニングをあの手この手でスリリングに描いています。この「一見地味な行為を壮大に見せる」事がとても上手いのです。近いところだと、要は『DEATH NOTE』で夜神月がやっていたポテチですね。あれと同じです。

 このように、カンニングを演出によってサスペンスに仕立てている手腕も見事ですが、本作はそれに加えて、仲間で何かを成し遂げるというケイパーものの側面も持っています。リンがカンニング事業を拡大し、より多くの人間と組織的にカンニングを行う様はテンポも手際も良く、とても面白いです。まぁよくよく考えてみれば、「こんなのあり得ないな」とか、「そんな対策してる暇があれば勉強しろ!」と思わないでもないですが、観ている最中は気になりません。

 スリリングなケイパーものである本作ですが、それだけではなく、話が進行することで、タイの問題も浮き彫りになっていきます。それは頭があっても金が無ければ意味がないということです。物語の構造的にもこれを見せつけてくる本作ですが、さらに強調するのが役者陣です。

 本作の主な登場人物は4人で、天才のリンとバンクは貧しい家の出身で、奨学金で学費を賄っています。後の2人は対照的に金持ちのボンボン。この配役が絶妙でした。リンのどことなく心が読めない感じとか、バンクの誠実な雰囲気や、グレースの「悪気はないのだけどなんかウザい感じ」や、パットのブッ飛ばしたくなるチャラい雰囲気がよく出ています。彼らの好演のおかげで、「苦学しているのにパッとしない天才」と「ちゃらんぽらんなくせに金の力で何だかんだ上手くやっているボンボンども」の対比が強まります。これ故、リンがカンニング事業に手を染めていくこともストレスなく観ていくことができます。何故なら、リンにとっては、「底辺から成りあがる」手段だからです。この点は学校の教師でもない限りは爽快に観れるのではないでしょうか。

 ただ、物語的には、作中でこの天才2人は終始金持ちに振り回されています。確かに天才的な頭脳で事業を拡大していくのですが、危険な目に遭うのはいつも彼女たちです。そして何か問題があれば、矢面に立たされるのも。終盤の展開など特にそうです。ここでも、「世の中は金持ちが最強」な点が強まります。ラストの後だって、どうせ金持ちは賄賂を渡してお咎め無しだろうし。ただ、だからこそリンのラストの行動には胸をうたれます。本作はただスリリングなケイパーものなのではなく、ちゃんと己の罪と向き合う(このとき入る部屋が真っ白というのも良いですね)話にもしているところは舌を巻きます。

 以上のように、演出から配役そして脚本に至るまで、かなりの完成度を誇る作品だったと思います。