chako

僕のスウィングのchakoのレビュー・感想・評価

僕のスウィング(2002年製作の映画)
3.9
可愛い少年が主人公の作品が好きなので、「僕の〜」というタイトルから何となくタイトル借り。 「小さな恋のメロディ」や「リトルロマンス」のような可愛らしい作品でもあるけれど、私にとってはこれまであまり知らなかったマヌーシュ(ロマ、ジプシー)と呼ばれる人々やその文化を知れた作品でもありました。

フランスの田舎町を舞台に、夏休みに祖母の家に訪れた少年マックスとそこで出会った少女スウィングとの一夏の物語。
少年のように悪戯好きな少女スウィングに導かれるように、マックスは自然に溶け込み、ロマの人々や文化と触れ合い、新たな世界を発見していく。

誰も入れない秘密の川での川下り
ハリネズミの住む森
二人で寝そべった原っぱ
好きな人の夢を見るという黄色いお花のおまじない

大地、サラサラと風でなびく草木、陽の光
自然をフルに感じるような瑞々しい映像と陽気なマヌーシュスウィング
すでに大人になってしまった私には全てが愛おしくて、キラキラと輝いて眩しいくらい。

二人の淡い恋の物語のようで、お婆さんが話すナチスによる虐殺の告白や鉄条網に嫌悪感を抱く医師など、所々に彼らが受けてきた傷跡を感じる描写が挟まれるのも興味深かった。

印象に残っているのはラストシーン。
「私たちが演奏しているのは楽譜の音楽ではなく、心と耳の音楽なのだ」と劇中で語られるように、マヌーシュの人々は文字を持たない。異文化から生じてしまった二人の行き違いが切なく、何とも言えない気持ちにさせる。

文字って何なんだろう・・・
本当に大切なものは文字や目に見える形として残さなくても、心に刻むべきなのかもしれない。
ほんの少しのほろ苦さを残しつつ、そうして彼も彼女も大人になっていくんだろうなと思えるような爽やかな後味。

休日の昼下がりにコーヒーでも飲みながら静かに観たくなるような作品。
chako

chako