螢

悲しみに、こんにちはの螢のレビュー・感想・評価

悲しみに、こんにちは(2017年製作の映画)
3.8
「家族になる」過程を、淡々と、けれど慈しむように丁寧に追った秀作。

母が死んで、母の弟にあたる叔父夫婦に引き取られた6歳の少女フリダ。

叔父夫婦はフリダを気にかけて大事にしてくれてはいるし、フリダにとっても知らない人ではない。
けれど、やはり、夫妻とその実の娘であるアナの幸せな「三人家族」の姿を目の前にすると、孤独と、そして、疎外感を感じぜずにはいられない。

自分の感情を持て余して、さまざまなわがままや、ひどいことをしてしまうフリダ。
それでも、フリダと三人は、一夏の間に距離を縮めて「四人家族」となっていって…。

少女が抱える喪失の悲しみ、不安、戸惑い、わがまま、疎外感、無邪気さ、前進などが、日常の細々としたエピソードの積み重ねの中で丁寧に描かれています。

そして、夫にとっては姪でも、自分にとっては血の繋がらないフリダを引き取った義理の叔母マルガの迷いや怒り、それらを超えた覚悟や優しさ、寛大さも、フリダの心に負けず通らず丁寧に描かれていて、胸に響きました。

本作は監督さんの実体験がベースにある作品だということ。
同じ言葉の繰り返しになりますが、そのためもあってか、全てをとても慈しむように、過程の一つ一つが本当に丁寧に描かれています。

ラストがまた胸にくる…。

新人監督さんらしく、カメラワークや色彩の使い方などは、まだまだ自身の持ち味や世界観が確立されてない感じがある気がしましたが、派手な演出や劇的な展開に頼るのではなく、人の感受性や気持ちの過程をまとめ上げた感性と才能に、期待したいです。

また、観る前は、シンプルな原題「Estiu 1993(夏 1993年)」に対して、あまりに異なる邦題の「悲しみに、こんにちは」はちょっとどうなんだろう…と思っていました。
けれど、観終えると、ラストシーンを象徴するこの邦題はなかなか素敵だなあ、と久し振りに思えました。
螢