ある夏の終わりの日曜夜。帰宅したマンションのエントランス、ガラスドア越しの階段に悠々とGが佇んでいる。夏も終わりだからか、妙に肥えている。そこを通らなければ部屋には帰れない。
10分経過。みんな翌日は仕事だろう、駐車場にはキレイに車が整列し、駐輪場もパンパンだ。誰も帰ってこないかもしれない。
20分経過。Gは動かず。実家から持たされた食品が重くて仕方ない。保冷剤も溶け出した。誰も帰ってこない。マンションの前の通りすら人が通らない。
30分経過。Gは動かず。一瞬だけドアを開けて、ポストに入っていたチラシを丸めて投げてみる。当たるわけがない。わたしは球技が死ぬほど苦手だ。もちろん誰も帰ってこない。
40分経過。Gは動かず。思い立った。すぐそこのドラッグストアでスプレーを購入し撒き散らすのはどうだろう。良い案だ。40分間わたしは一体何をやっていたんだ。重い荷物を抱え、ダッシュでドラッグストアへ。
その日3度目の来店を知る店員さんの目が「また来たの?」と言っている気がする。信号待ちでノズルをセットし、構えの練習をする。交差点の向かい側のおじさんが明らかに不審な顔をしているのがわかる。でも、そんなのはどうでもいい。わたしはこれから戦なんだ。
意気込んでエントランスに足を踏み入れると、Gの姿は消えていた。
とにかく乱射する映画が観たくなった。
…撃ちまくられていたが、それだけ。理由もなく狙われる男女の若者グループ。同じく狙われる通りすがりの家族。無能な警官。冒険なんてせずに、いつも通りのストレスぶっ飛ばし系タランティーノにしておけばよかった。
日曜夜の貴重な45分と864円を返してほしい。でも、スプレーが2本になったので怖いものなしだ。