重みを感じるページを1枚ずつめくるように、ゆったりとした語り手の声で進められていく。まるで絵本を堪能しているような穏やかさに、甘いため息が出る。『恋に落ちるとは心配することだ』という冗談みたいな言葉に、思わず「かわいい」と声が出る。年齢を重ねすっかりと擦り切れてしまった心に、こんな作品がするんと染み入っていくなんて、まさか思いもよらなかった。
交差点に佇むまだ若い木に、そっと見守る古びた配管。伝統を重んじる犬のヴァルディに、草原の中の美しいケーキ屋。黄色いMessiの文字を背負ったツヤツヤで眩し過ぎる背中たち。何にも媚びていない正しい重さの言葉と、絵画のような全てのシーンに涙が出そうになる。
非効率な諸々を無駄と感じ、だんだんと夢見ることが少なくなってきたように思う今。綿菓子のような妄想に身を預けたって何の問題もないんだ、と気付かされる。心の毛羽立ちをふんわりと柔らかく解きほぐされた日曜午後。うっとり。