くりふ

マリア・ブラウンの結婚のくりふのレビュー・感想・評価

マリア・ブラウンの結婚(1978年製作の映画)
4.5
【愛に向かぬ時代、を波乗る女】

特集上映「ファスビンダーと美しきヒロインたち」でみました。「西ドイツ三部作」の一本目。

これは見応えあります。面白かった!初期に比べ大衆化した表現を、評価しない向きもあるようですが、初期みてないから気にしない(笑)。確かに骨格メロドラマだけど、監督はダグラス・サーク・チルドレンだし、甘さだけじゃあ終わらない。

「サーク・オン・サーク」というインタビュー本が面白いのですが、メロドラマの類の素材をどうやって処理するのか?という問いに、サーク監督は「とことん嫌って愛することだ」と答えているんですね。両義性持つ視線。ファスビンダーもこれを持っていると思います。

結婚は爆発だ!と言わんばかりの冒頭が、酷すぎて笑いも呼びます。終戦が近づき、爆撃を受ける中で結婚届を出すマリアと軍服の夫。しかし、届け後半日で出征した夫は、そのままずっと帰らない。

駅で毎日、待つマリア。この「修行」がまず、彼女を形作ります。半日で夫と別れてしまった花嫁は、時間が経てば経つほどに、愛を形作ることも、それが初めはどんなものだったかをも、忘れてしまうんじゃないでしょうか。戦後まず、生きなきゃならんし。

マリアは全編通して、夫を愛していると言い続けますが、それってどんなもの?と聞いたら答えられないんじゃないだろうか。

元々の性格か、決意したのか、夫不在のマリアは欲望に正直になる。自身の女を利用し、つまり男を利用して生き始める。敗戦の混沌、その濁流を波乗りするように進む彼女は、はっきり痛快です。

しかし裏社会でなく、男社会で自分の城を持つまでに成り上がるが、夫への愛、の空白を埋めなかったことが、彼女を酷く蝕んでいた…。

ドイツの戦後復興期をたくましく生き抜く女妖怪の一代記。演じるハンナ・シグラさん、演技に力籠ってますね。説得されます。美人度もスタイルも程々でも、そのたくましき肉感に見惚れます。刃物のような性格でも、頬の丸みが思慮深い男をも惹きつける(笑)。

彼女を囲む男たちの面白さとしては、皆、彼女より繊細なんですね。男二人が交わす「密約」の重みなど、マリアはわかっていたのかな?

印象的な場面は幾つもありましたが、タラちゃんも逃げ出すだろう、「愛の三すくみ」の修羅場が強烈。ありゃフリーズするよね確かに。まったく息が止まった後で、泣くべきか笑うべきか本当に迷います。

結婚は爆発!で始まった物語は、マリアが花嫁の続きを始めるから、その因果により(笑)、一巡し突如、派手に閉じることになりますが、とことん利己主義で生きる女妖怪の、朽ち果てる先も見てみたくて、それが妖怪としての責務だろう(笑)、と不満に感じたことがまあ、欠点と言えば欠点でした。

あ、そうだ『ローラ』でも気になったのですが、音楽の使い方がぶっきらぼうなのは、監督の照れなんだろうか?そんな中でも、進駐軍向け即席バーの場面は切なく耳に残りました。グレン・ミラーがこんなに醜悪に聞こえるなんて、初めてでしたよ。

(当時)公開中の『ベルリン・アレクサンダー広場』もみたいんですけどね。14話制覇するにはまるで時間がなく、1本だけみる気もしないから、レンタル始まることを期待して、気長に待ちたいと思います。

<2013.3.26記>
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