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マリア・ブラウンの結婚のkossのレビュー・感想・評価

マリア・ブラウンの結婚(1978年製作の映画)
4.2
戦争がもたらす大河メロドラマ。だが、女は弱者や庇護される者ではなく、男を手玉にとり成り上がっていく女の一代記であり、西ドイツを象徴する女性像でもある。逆に妻の罪を被り収監される夫は東ドイツ的である。

ヒトラーの写真から、役所での結婚式を襲う爆撃のオープニングが衝撃的である。終戦を経て、容姿を武器に占領軍のアメリカ兵向けバーで働き、アメリカ兵と恋に落ち妊娠、そこに戦死していたはずの夫の帰還、銃殺事件。アメリカ資本家への取り入りと籠絡、地位と富を得る。まさに怒涛の女の一代記。メロドラマも、成り上がりも、フェミニズムも、戦争も、政治も、すべて包摂する物語展開に圧倒される。

東ドイツ的なのは夫ばかりではなく、殺されるアメリカ黒人兵も、資本家も、その片腕である会計担当も、マリア・ブラウンのためにすべてを与え、耐え忍び、金には執着せず、誇りだけが高い男たち。

ラストもまた衝撃的である。1954年の4年間無敗の優勝候補ハンガリーに西ドイツが勝利するワールドカップ・サッカーのラジオ中継が流れる中、資本家の遺言が読み上げられ、マリア・ブラウンへの財産分与が伝えられた後、消し忘れたガスが大爆発する。苦労して手に入れた富が一瞬にして無になり命を絶たれる。平和でも戦争と同じことが繰り返される。見事な結末は強大なアイロニーを提示してただ茫然として観るしかない。
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