kossさんの映画レビュー・感想・評価

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(1960年製作の映画)

4.2

ジャック・ベッケルには多彩なスタイルやジャンルの作品があるが、遺作がフィルムノワールなのは面白い。ここでもベッケルの構図や人間関係、細部といった独自性が発揮され、脱獄ものの領域を超えてしまう。

タイ
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白熱(1949年製作の映画)

3.7

マザコンでてんかん持ちのギャング。フィルムノワール色は薄く笑いさえ含み、明るく突き抜けている。母も妻も仲間のギャング・ファミリーだが、移民の歴史など暗さや影は一切ない。そもそも善悪など視界にないようだ>>続きを読む

阿片戦争(1942年製作の映画)

3.5

マキノ正博のフィルモグラフィの中で最も特異な作品。国策映画だからではない。国策映画なら他に2本ある。日本語で英国と中国の戦いを描いているからでも、コスプレのように付け鼻で日本人俳優が英国人を演じている>>続きを読む

悪は存在しない(2023年製作の映画)

3.7

オープニング・タイトルの“EVIL DOES NOT EXIST”の書体とカラーがまるでゴダールで、それに続く樹々を見上げる仰角がトリュフォーを思わせる。この映画は物語や俳優の演技ではなく、濱口竜介ら>>続きを読む

喜劇 あゝ軍歌(1970年製作の映画)

3.8

前田陽一の喜劇をどう分類すべきだろう。師匠である渋谷実の重さとも、同時期の森崎東の反体制とも違う。一見は松竹喜劇の系譜のようだがそれとも異なる。底流にあるのは批評精神と非倫理、非道徳、或いは哲学的とい>>続きを読む

(2023年製作の映画)

4.0

「茜色に焼かれる」の池袋暴走事故に続いて、再び現実の事件を扱った石井裕也。茜色では怒りとしての引用だったが、本作は相模原障害者殺傷事件を客観の視座から冷静に描く。事件の残虐性や狂気を追うのではない。排>>続きを読む

ちんころ海女っこ(1965年製作の映画)

3.3

石堂淑朗の政治と前田陽一の喜劇が融和しなかった惜しい作品。島を日本のハワイにしようとする村長勢力と海女軍団の対抗、温泉掘削を夢見る男とつけ込む山師。海女芸者や海女トルコなど、開発に狂う人々の騒乱を艶笑>>続きを読む

昨日消えた男(1941年製作の映画)

3.8

ダシール・ハメット「影なき男」が原案とされているが、マキノ版の<遠山の金さん>である。15年後のセルフ・リメイクでは「遠山の金さん捕物控 影に居た男」のタイトルにしている。遠山の金さんは松竹の高田浩吉>>続きを読む

オッペンハイマー(2023年製作の映画)

3.0

反核映画でも反戦映画でもない。ハリウッドの伝記ジャンル映画で、主題は権力に使われる者の悲劇とその人生。

広島、長崎の惨禍の描写がないのは当然だろう。クリストファー・ノーランは政治的意図も歴史批判も持
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歌え若人達(1963年製作の映画)

3.0

ここまで手を抜いた木下恵介もめずらしい。山田太一の得意の若者群像脚本は甘過ぎる。内輪ネタと楽屋オチばかりでゲンナリする。正月映画としての、木下オールスターは納得できるが、佐田啓二の「喜びも悲しみも幾年>>続きを読む

毒薬と老嬢(1944年製作の映画)

3.5

そもそも何故フランク・キャプラが監督したのか。キャプラスクと呼ばれる理想主義やヒューマニズムあふれる作風とは異なるブラックユーモアの作品。調べてみると、前作「群衆」の興行失敗でキャプラ・プロダクション>>続きを読む

いんちき商売(1931年製作の映画)

3.4

マルクス兄弟のギャグのオンパレード。とりわけクルクル髪のハーポの変顔、描きヒゲのグルーチョが動きまわり弾ける。豪華客船の密航者という設定はあるがとくに物語展開はない。四兄弟のギャグやセリフを楽しむ大柄>>続きを読む

アンナ・マグダレーナ・バッハの日記(1967年製作の映画)

3.7

驚異的なカット数の少なさ、固定カメラによる長回し。この実験作が目指すのは音楽と時間の再現、音楽と空間の再現だろう。

バッハの時代に似せた演奏は古楽奏者により、カツラ、衣装、狭い空間で行われ同時録音。
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ニックス・ムービー/水上の稲妻(1980年製作の映画)

3.8

フィクションと現実の混交とか、映画と現実の越境とか、そんな解釈は適切ではないだろう。映画監督の人生の幸福な最期を映した遺言といえる作品である。

ニコラス・レイは何と幸福な最期を迎えるのだろう。死を悟
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モンパルナスの灯(1958年製作の映画)

3.5

マックス・オフュルスの急死を受けて大幅に改稿したジャック・ベッケル。大衆から遊離した芸術家、芸術と広告の関係、アートビジネスの本質など、現在では常識になっている事柄を65年前に提示しているのは、さすが>>続きを読む

TAR/ター(2022年製作の映画)

3.8

実在の人物の伝記ではない。ベルリン・フィルで初めて女性として首席指揮者に昇りつめ、作曲家としても活躍するリディア・ターという架空の人物をめぐるフィクションの物語。

一見、ターの絶頂と転落の人生ストー
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愛と死の谷間(1954年製作の映画)

3.8

やり過ぎともいえる構図とカット割りの連続、重層的な人間関係、五所平之助がつくり出すカオスに圧倒される。

オープニングの跨線橋の下を通る汽車の煙がカオスを予示する。車両基地脇の病院をトポスにする物語。
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大阪の宿(1954年製作の映画)

4.1

細部に神が宿るように、完璧な構図とカット割りが怒涛のように展開する。五所平之助の力業が神々しく眼前する。

オープニングの路面電車と淀屋橋駅が鮮やかに大阪の街へ導く。通り、煙突、ビル、川、河原、大阪城
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モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン(2022年製作の映画)

3.6

精神病院の白壁の個室の拘束衣での幽閉からの脱出のオープニングから、配給会社が惹句する次世代のタランティーノではなく、ギレルモ・デル・トロの追随を期待したが、物語が進むうちに小さなお話になってしまう。>>続きを読む

ダークグラス(2021年製作の映画)

3.3

月食、盲目、コールガールという記号を揃えるが、B級テイストが満載。ホラーの巨匠も齢を重ねて発想が枯れたということか。血は頻出するし、人を攻撃する盲導犬の肉の引き裂きもあるが、あまり怖くない。もう少しエ>>続きを読む

落下の解剖学(2023年製作の映画)

3.7

法廷劇でも、サスペンスでもない。男女の力関係が逆転した物語。強い女と弱い男というほぼ明確になりつつある現代を象徴する風刺である。

裁判によって次々に女の裏側が明らかになるが、これまでこの立場は男のも
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刺青一代(1965年製作の映画)

3.7

前半と後半で落差が激しい。
前半は逃亡と兄弟愛をベースに満州やトンネル建設、談合、会社と工夫という社会視点を入れ、そこに人妻への愛、おきゃんな娘の恋を加える物語。

だが後半の殴り込みになると一挙に清
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東京流れ者(1966年製作の映画)

4.2

これが清順だ/映画美をつくる男。
ハイキーのモノクロームのオープニング・シークエンスに始まる映画美は、赤や青の原色の色彩にあふれ、舞台のような簡潔で象徴的な数々のセットが造形される。ハリウッドのミュー
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瞳をとじて(2023年製作の映画)

3.7

「ドライヤー亡き後、奇跡など起きていない。」という編集技師の発言がこの映画のすべてを表現する。映画愛の映画は数多く存在するが、この映画は、映画の奇跡を信じる映画、映画への信仰を表した映画である。

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夜明けのすべて(2024年製作の映画)

3.4

フロントガラスの雨滴、雨のバス停のベンチに倒れる女性。オープニングの触覚度が高く、夜景、電車、街並、隧道などの風景が16ミリ撮影で効果を発揮するが、物語が進行すると深度がない。胸に来ない。

病気をも
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アナタハン(1953年製作の映画)

3.3

孤島に残された1人の女と31人の男という扇情的な物語ではない、直截な戦争の物語である。それも日本軍組織と精神、日本軍人への考察という冷静さがある。スタンバーグがアナタハン事件に興味を持ったのは1人の女>>続きを読む

怪談雪女郎(1968年製作の映画)

3.8

小泉八雲によって普及した雪女民話が、大映にかかると格調高い文芸ものになる。雪女の怖さより夫婦愛と母子愛が強調される。平らかで日本美な藤村志保の容貌が平素の慎ましさと雪女の造形の変化に活きる。実直な仏師>>続きを読む

街の中の地獄(1959年製作の映画)

3.5

ネオリアリズモの系譜を継ぐ女性映画。現在の眼から見ると典型的な囚人の映画で、更生しようとしてもできない、出所後に再び入所を繰り返す。現在も変わらない状況。その状況を女囚にフォーカスし、アンナ・マニャー>>続きを読む

哀れなるものたち(2023年製作の映画)

3.8

ヨルゴス・ランティモスのオリジナル・ストーリーではなく原作小説がある。だから、現代の「女の一生」とも言える大人の絵本であり、男性支配と家父長制に反逆するフェミニズムの物語。

自殺から蘇生させ胎児の脳
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猿女(1964年製作の映画)

4.0

「フリークス」「エレファント・マン」あるいはお手軽な「グレイテスト・ショーマン」と比べてみると、人類学ノートとでも呼べる思考を感じる。多毛症女を見世物として興行し、結婚し出産までの物語は、文化や神話か>>続きを読む

オール・ザ・キングスメン(1949年製作の映画)

3.9

「権力は腐敗する。」政治の基本定理を論理的に物語化する。不正を暴き民衆に支持された男が、知事になり権力を手に入れると、自分の名前を冠した道路、学校、病院を建設し、贈収賄、買収、献金、裏金、私欲に浸る。>>続きを読む

街の野獣(1950年製作の映画)

3.7

チンピラが一旗あげようと、ひたすら走る、疾走する。ロンドンの裏街、夜のストリート、裏稼業、乞食ビジネス、クラブの女。何度も登場する階段は物語のメタファーの役割。興行で一儲けのはずが事前のアンダーファイ>>続きを読む

(2023年製作の映画)

3.3

「座頭市」で勝新太郎への憧れをてらった北野武は、今度は黒澤明への憧れを作品化した。飛ぶ首、吹き出す血、刺さる矢、泥濘の闘い、影武者、大集団の合戦。様式美を打破した黒澤時代劇の代表的項目が並べられるが、>>続きを読む

狐と狸(1959年製作の映画)

3.8

今はほとんど無くなってしまった行商という商業形態。近江商人や富山の薬売りと並んで甲州商人も巧みな販売術を持っていた。行商は投宿して戸別訪問で売って歩く。茨城の水郷潮来のロケーションや水路を行く嫁入り舟>>続きを読む

吸血鬼(1932年製作の映画)

4.1

オープニングの大鎌を持つ男の不気味さと不吉さで引き込まれる。光と影、二重露光、雲など映像技巧が凝らされるが、後の世代に受け継がれる真正なホラーであり、ムルナウのノスフェラトゥとともに、その原型となる映>>続きを読む

神の道化師、フランチェスコ(1950年製作の映画)

4.0

宗教話の厳粛さ、荘厳さはない。軽やかなユーモアがあふれる、童話か絵本のような物語。風雨に打たれ藁小屋を追い出される迫害にはじまり、小屋掛けから生活を安定させると、村を歩き、貧しき者には与え、癩者に出会>>続きを読む

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