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毒薬と老嬢のkossのレビュー・感想・評価

毒薬と老嬢(1944年製作の映画)
3.5
そもそも何故フランク・キャプラが監督したのか。キャプラスクと呼ばれる理想主義やヒューマニズムあふれる作風とは異なるブラックユーモアの作品。調べてみると、前作「群衆」の興行失敗でキャプラ・プロダクション解体にまで追い込まれたキャプラが税金を払うために監督したという説があるようだ。

「群衆」の後というのが、キャプラのフィルモグラフィの中での特異性を理解する糸口になる。「群衆」はマスメディアによって創り上げられる虚像やデマとそれを盲信する大衆の風刺劇だった。この作品の毒薬による老人殺害や大統領と思い込む狂人、職務より趣味に熱心な警官などのブラックユーモアは強い社会風刺である。「群衆」では人々の反感を買ったが、この作品ではブラックな設定が受け入れやすい風刺コメディになった。オーバーアクトのケーリー・グラントをはじめ俳優たちの演技は過剰だが、妖精のごとき老嬢二人は秀逸で「オペラハット」の老姉妹をはるかに超える。

しかし、舞台と映画の懸隔はぬぐえない。舞台で効果的な設定が映画では難しいことが多い。この作品もその例にもれない。キャプラスクを愛する者はこの作品を好まないだろう。
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