幕のリア

ニッポン国 古屋敷村の幕のリアのレビュー・感想・評価

ニッポン国 古屋敷村(1982年製作の映画)
3.9
昭和五十五年、山形県上野山市古屋敷村(ふるやしきむら)の一年間を追った小川プロ制作のドキュメンタリー作品。
ベルリン映画祭・国際批評家連盟賞受賞作品。

婆さんが語るには、百年か二百年か前に税金がかからないからと山奥深くに居を移す人がいたと云う。

村を囲む山々を等高線通りに精巧に再現したジオラマ。
夏に吹き込むシロミナミ(冷気)をドライアイスで再現実験し、どの田んぼが影響を受けやすいかを事細かに確認。
勿論実際の様子を映像に捉える。
ディティールを生真面目に撮っていけば膨大な質量に膨れ上がっていく。

天候と米作だけでなく、炭作り、出稼ぎ、自給生活、徴兵、熊の祟り、満洲、進軍ラッパ、養蚕…村人に隈なくスポットを当て、語るに足らない対象など無いと物語を炙り出していく。

とにかく村の記憶と今に息づくモノ全てを知ろうとする力が強いのに驚かされる。
なんでも三里塚闘争のドキュメンタリー作品の後にこの村にやって来て、市長から"三里塚から赤い鳥が飛んできた"と揶揄されたそうな。
それに刺激されたのか、御構い無しなのかはともかく、これだけ村の全てに興味津々で自ら汗を流し、深く考察し、全てを知りたい収めたいという熱意は容易に周囲に伝播しただろう。

長く仕事を続けていると、どうにも評論家めいた言動が増えてきていけない。
この熱意に触れ、感化されない手はない。
幕のリア

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