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ファウストのEyesworthのレビュー・感想・評価

ファウスト(1994年製作の映画)
4.8
【下を向いて歩こう】

ヤン・シュヴァンクマイエル監督の実写と人形アニメを合成したダーク・ファンタジー作品

〈あらすじ〉
19世紀初頭のドイツ。地上の学問を追及していたファウスト博士は、ある日、高利貸マウリツィウスのもとを訪れる。しかし、彼はお金を貸す代わりに生きる意味を教えると言って、博士を町へと導く。そこで博士は、マルガレーテと出会い、心奪われてしまう…。

〈所感〉
いやぁシュールといったら褒め言葉だが、悪趣味でグロテスク(これも褒め言葉か)!なんだか『アリス』以上に覗いてはいけない部屋を覗いてしまった感じがする。これを見て誰もが最初に驚くであろう実写×ストップモーションのミックスは非常に独創的であり、コマ撮りやドローイングといい、どうやってこんなものを想像し創造してしまったのか気になるところ。ゲーテの『ファウスト』は知を追求するあまり、己の魂を糧に悪魔メフィストフェレスと契約した男の運命を描いた作品という認識だが、本作は人形劇を通じて、操られる哀れな人間=マリオネットの運命をそのまま描いているようで、新しい独自のファウスト物語を作り上げていることが素晴らしい。無機質な冷たさの象徴のような人形が突拍子も無く語り、人間界で暴れ回る得体の知れない恐怖、それを掌の上で転がす悪魔、文字通り一秒先も見えない展開で何を見せられているんだ…とふと我に返るが、やはり最後はこれを見てなんかよかったと思った。欲望は自分には贅沢なので、私は上なんか見ずに、下だけ向いて歩いていこう。

「では俺の胸の渇きは何だ?」
「お前の渇きは傲慢の裏返しだ。上を見ず、人並みに生きろ」

「宇宙の真理とは、お前が踏みしだいた草の葉一枚一枚にあるのだ」。
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