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リズと青い鳥のmatsukawaのレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
5.0
名前の付けられない感情、言葉では説明しきれない感情を、映像と音で見事に表現しています。台詞よりも映像と音の方が遥かに雄弁という、映画のお手本のような理想的な映画だと思います。

とにかく一つ一つのカットの表現力が尋常じゃなく高い。

まず「意識の流れ」風のアバンタイトルが鮮烈でいきなり引き込まれる。
効果的な主観ショットはその後も全編に渡って頻繁に挿入されて、更に客観ショットもその画角とか構図によって「誰かの主観」ぽさが強い。
カメラが微かに(呼吸をするように)揺れているのも、その感覚を補強する。
全てのカットが「みぞれの主観」の疑似体験か、「(カメラを媒介しない)観客の主観」でそこに居合わせるか、のどちらかなので、没入感というより「参加感」みたいなものがある。他人事ではない感じ。
更に言えば「観客の主観」と感じられるカットも「実はみぞれの脳内で想像されている疑似客観」に感じられたりもして、そこがとても面白い。
誰かと話しながら、少し離れた所から自分達を見ている映像を想像するようなあれです。
で、終盤の重要な場面(のぞみが自分の中のリズと青い鳥に気付くシーン)では、例外的にのぞみの主観ショット(上から見下ろす上履き)が差し込まれたりして、憎いくらい上手い。

ストーリー自体はシンプルで王道ですらあるけど、映像表現が優れているとこんなにも新鮮でビビッドな作品になる。感服です。

京都アニメーションが作り上げたこの豊かな芸術が、いつの日か復興する事を祈って。
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