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劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~のyukikaのレビュー・感想・評価

3.9
エンターテイメントや創作する仕事の片隅でずっと生きてきて、なんで創作物ってあるんだろう?ってそもそもの原点を、なにとはなしにふわっとずっと。
ほんとにずっと考えてた。

だって夢を語る作品は山ほどあるけど、現実には夢を追うことが必ずしも幸福ではなく、時には異端の目で見られることだってある。
「友達ってこんなにいいものだよ」「大切にしなきゃ」なんて作品も溢れているけれど、実際にはいじめはなくならなくて、
友達の顔色を伺いながら学生生活を送っていたり、そんな過去を引きずっている人たちがたくさんいる。
「命はなによりも大切だ」って訴えてない作品はないくらいだけれど、殺人はなくならないし、戦争だってなくなっていない。

分かり合えない人はいないだなんて絵空事なのに…絵空事だってことも、みんな知っているはずなのに、じゃあなぜ、人は創作物の中で意味のないウソを描き続けるんだろう?



あ、そうか。
『だからこそ』なんだ。
人間は愚かだし、キレイなだけの世界は存在していなくて、
でもだからこそ理想を忘れないために、
現実に絶望しすぎないために、
それでもキレイな何かを目指す意思を捨てないために、人は創作の中にそれらを描いている。


『夏目友人帳』らしく、
優しくて、
切なくて、
温かくて、
でも、とても厳しい。


劇場という没入空間で、そんな世界を全身で味わいながら、長年の疑問に、こんな風に、ひとつの回答を得られた気がしたのでした。


エンターテイメントを…創作することを、やっぱり死ぬまで仕事にしていきたいと思う。



おススメしたい人
・アニメファン、夏目ファンだけではない、すべての今懸命に生きている人たち






追記

内容について少し。
多くのレビューにあるように、全キャラクターに加え、オリジナルキャラクター数人との物語がメインのため、確かにやや冗長気味。
本来30分尺が最適な作風なのだと思う。
けれど、30分尺と変わらない空気感と時間の流れを2時間弱積み重ねたことの意味は絶対にあった。わたしは最後の最後、小学生時代の同級生と夏目がもう一度会うシーンからエンディングにかけて嗚咽するほど泣いたのだけど、それはあのワンシーンだけが理由ではなくて、2時間の物語が心に静かに折り重なっていった結果だったのだと思うから。
人の感情が溢れるのって、たった一度のインパクトある出来事だけが引き金とは限らない。そんなところも、夏目らしいリアリティがあってわたしはとてもすき。
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