Pigspearls

ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男のPigspearlsのレビュー・感想・評価

4.5
庭。花。情熱。色。調和。控えめな愛。だけど人生をささげることのできる愛。

同じ歩調で庭を歩く二人の静穏で親密な空気。うーん卑怯なほど、好きにならずにいられない画!

これはファッションムービーじゃない。この時代におそらくとても困難な環境で、継続可能な愛の話。なんだか夢のよう。
(アイリスアプウェルから彼のあとにはもう誰もいない、宝物よ、と言われるほどの服への誠実で熱烈な愛)
(離れたことはないという30年来のパートナーへの愛)
(近くで長く家族のように仕事を続ける仲間たちへの愛)

好きな人は観るだろうし、個人的な想いが強すぎて多くを語るのは難しい。そっと宝物のように大事にしたい、そんな作品。2回観て泣いた。

ーー以下蛇足メモ
ドリス、スリムで穏やかなダスティホフマンみたいでかっこいい。笑うとかわいい。最高やん。

yslのマジョレル庭園といいデレクジャーマンとかダニエルジャジアクとか同性パートナーと庭を子供のように愛しむというのは、常に美意識を問われるクリエイターのライフスタイルの定型。だけど中でもドリスの家は本当に優しげで色に溢れていてとても素敵。フランス、イギリス、ベルギー、そして時代でそれぞれの庭づくりもパートナーシップも全く違うのがまた感慨深い。

個人的に、生まれ変わったらヴェルトルーズ修道院か奈良原一高の王国の修道士になりたい人間なのですが、現世の憧れの楽園はここにあると叫びたい。

自分では忘れてると思ってたけど96年のボリウッドのコレクションとか某ファッション通信で観てたのを思い出した。モードに発信力と強度があった時代。自分はいまのコレクションを果たして20年後に思い出せるだろうか?とも。

ドリスはむかし頑張ってジャケットやワンピを買ったものの、自分が着こなすには柄とサイズのバランスがどうしても難しかった。ただコレクションとしての画が本当に途方もなく美しい。アントワープの中ではヴェロニクに散財してきたが、彼女は定型文がある。映画の中でもいわれていたとおり、ドリスはシーズンごとの評価も印象も一変するし日本のセレクトでは探すのも一苦労。改めてメンズが素敵だったので、もうちょっと歳をとったらうんとオーバサイズで着てみたい。