ちろる

ファントム・スレッドのちろるのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
3.9
一糸乱れず頭のてっぺんから靴の先まで完璧で、穏やかで規則正しい生活と仕事、そしてそれを静かに支える腕ある針子たち。
側に置く女は少し芋くさい方がいい。
美しい出来上がったモデルなんかではなく完璧じゃないスタイル、田舎臭い顔を自分の完璧なオートクチュールドレスにまとわせれば、育ちの悪さはベールの下に隠れて彼女自身が僕の作品の1つになる。

この作品の仕立て屋レイノルズ役として完璧なダニエル デイ ルイスの繊細そうな職人ぶりにうっとりさせてもらえた。
50年代のハウスのクラシカルなインテリアも、次から次へ出来上がる色彩豊かなオートクチュールのドレスも優雅で全てが目の保養になるものばかり。
正直言うと、レイノルズと、アルマの半ば変態的と言ってもいい愛の感性はわたしにはもうお手上げで、理解は到底できませんが、この訳わかんない2人の狂気のぶつかり合いを最後まで観ることができたのは、フィルムカメラ撮られたこの作品のフィルター越しの役者と監督の緊張感が秘められてたからだと思う。
このデジタル時代にフィルムとは随分と完璧なことをしてくれた監督だけど、この作品で有終の美を飾るダニエル デイ ルイスと監督の向き合い方としてはこれが正解なのだと思う。

根深いマザコンかつシスコンである独身貴族レイノルズにとって女は自分を通過する存在、つまり使い捨てみたいな感覚なので必要以上に自分のプライベートゾーンに介入してきたら捨てるだけのゲス男なのですが、彼の採寸するシーンはとにかく官能的!
この色気のせいでまぁゲスでもいいかと許してしまうといえダニエルの特権を最大限に利用した作品と言ってもいいかもしれません。
また、この厄介な男を有り得ない形で手懐けに成功するアルマの曲者感もすごい!
私は神経質でもなんでもないけど、いい感じでイラつかせる攻撃的な態度とか何企んでるのか全く読めない無表情な感じは最後まで先の読めない謎多きこの作品にはぴったりでした。
このファントムって誰のことを指すのか?
レイノルズ?アルマ?それとも亡霊と化した母親なのか、、?
恐らく7割くらいしか理解できてませんが、とにかく変態的でお洒落で濃密な時間を頂きました。
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