「瞬間の尊さ」
同じ瞬間は二度とない。
印象的な季節描写とともに周りの人間も社会情勢も衣食住も変化する。出来事や環境により主人公に感情が落ちてくる。感情により幸不幸を決めるのではなく、刹那の儚さを感じ取ることができる日常があることに感謝し行動すると好日となる。タイトルの意味がここでわかる。
「自己と向き合う場」
自分の居所を認識することも重要だ。
主人公にとっては茶道がその働きをする。時の流れから距離を取り自己と向き合うことができる場。これもまた稀有な存在であり大切にしなくてはならない。本能が求めていたからこそ運命的に主人公は茶道を続けていく。自分にとっては映画館がこれに近い。自己の考えなど感情を鏡のように写してくれる場所だ。
「思いを馳せる想像力」
茶道において茶碗と掛軸はなくてはならないものだ。映画ではそれを通して人が接触する。込められた思いを考え、想像する。ものは時代や距離を容易に飛び越える。見る人が想像力をもってものと向き合えばそこに秘められた思いに辿り着いたり、予想だにしない目的地に到達したりする。
「すぐわからないもの」
以下4行は主人公の台詞だ。
世の中は2つに分けることができる。
すぐわかるもの、すぐにはわからないもの。すぐわからないものに対しては時間をかけ理解しようとしなくてはならない。
フェデリコフェリーニの『道』が劇中に登場する。主人公にとって幼少期にはそれはわからなかった。だが大人になって観ると涙が溢れ、これに感動できない人生なんて勿体無かったとまで言う。
決して感動できない人は勿体無い、ではない。他者に対して押し付けるのではなくあくまで昔の自分と比べている。
すぐにわからないものに対して時間をかけ向き合ったからこそ感動できる対象になったということが説かれている。ここにも想像力と忍耐力は必要なのだ。そうした中で世界は開け人間的な成長があるのではないだろうか。
この映画は、分類するならばすぐわからないものに属するだろう。そんな映画が私は好きだ。樹木希林さんありがとうございました。