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とんかつDJアゲ太郎のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

とんかつDJアゲ太郎(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

渋谷のとんかつ屋の三代目がDJを目指す。

とんかつとDJのどちらも「アゲる」(豚を揚げる/客を上げる)という意味で共通している、という一点突破で乗り切るのかと思ったら、渋谷で三世代続いた地元店舗の三代目たちとDJ文化が出会うクロスカルチャー物でもあった。

三代目は飲食業、家電製品店、本屋、薬局、旅館と、どれもチェーン店に押されがちな業種である。渋谷だと固定資産税も高い。その中で頑張ってローカル店舗を保っている5店の三代目と、一流のDJだが自宅は賃貸、DJ以外にアルバイトをしなければ生きていけないオイリーが出会ったことで話が転がり始める。

苑子ちゃんという女の子が渋谷のクリーニング店勤務というのも、ローカル性を感じさせる。そして渋谷で物語が完結し、渋谷をハブとしてそこから移動する場所である地方が一切出てこない。これは東京を舞台とした物語映画として珍しい。

三代目たち渋谷で生まれ育ったにもかかわらず、クラブカルチャーに全く馴染みがなく、初めて行ったクラブで正装をしていくのには価値転覆感がある。その彼らが二回目にクラブに足を踏み入れたときまた仮装をしているため、「またか…」と思わされたら、ステージに上がり揚太郎のコンテストを盛り上げるためにダンスばかりかラップを始めたときの高揚感よ。そのラップの内容も、老舗店舗三代目としてきちんと現状について考えていたことが分かる内容でよい。

東京対地方というコントラストが作りやすい表象には一切手を出さず、渋谷という小宇宙で完結させたのが勝因と思われる。
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