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トップガン マーヴェリックのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

これは、あれですね。トム・クルーズという人はスピード狂ですね。序盤の音速を超える場面や、バイクを駆る場面からそれが垣間見えるし、速さへの挑戦を正当化するために映画を作っているようにまで見える。その速さが圧のように感じられる撮り方の映画だ。プロットを追う類の映画ではなく、映画館で体験する種類のスペクタクルということだろう。

しかし物語としても、よく出来ている。ダイアログ・エディターもついており、スペクタクルの邪魔になりそうな台詞は一つも存在しない。10,000万人以上の雇用を生み出し、それらの人々が何万時間もの人生をかけ精緻に仕上げた、まるで工業製品のようなハリウッド映画だ(貶してはいない)。

序盤、マッハ10に挑戦する場面でピートが「行くぞ、グース」と言っており「まだマーヴェリックはグースと飛んでるんだ」と感動し、最後に出た「トニー・スコットに捧ぐ」の字幕でまた感動した。

「失われつつある空中戦の技術を継承するために作られた」のが空軍エリート上位1%のためのトップガンということなのだが、もう空中戦もないしどうするんだろうなあ…」と思っていたら、敵国の「ウラン濃縮プラントを空爆する」という作戦の遂行がメインプロットだった。

「戦闘機のカッコいいシーンを見せるのが主眼」という作劇には興醒めした。ウラン濃縮プラントを作っている敵国の名前も明言されないし(ミグ14が出てきたということはロシア?)、敵国のパイロットは黒いヘルメットを被っており顔が見えない。相手国を人間扱いしていないように見える。

しかし「博物館の展示品」("museum piece")のような敵国の戦闘機を用いて最新の戦闘機を撃ち落とす展開には、作り事と分かっていながらワクワクした(作戦自体にも二つの「奇跡」が出てくる)。「飛行機じゃなくて、パイロットの腕だろ」("It's not the plane. It's the pilot.")というルースターの台詞もよかった。

冒頭でマーヴェリックが挑戦するマッハレベルと作戦でパイロットが崖と平行に高度を上げていくときに強いられる重力レベルが10というのも、平仄が合っていい感じである。

女性の描写に関して言うと、1986年のオリジナルではケリー・マクギリスが教官役で出ていたのに対し、今回はジェニファー・コネリーが海軍御用達のバーを経営するシングルマザー役で出ている。ヨットを操縦するシーンがとてつもなくカッコいい。また、作戦行動で唯一マーヴェリックのスピードについていけるのは、女性パイロットのフェニックスだけである。女性にも相当高い身体能力が要求されている映画である。

ハングマンとルースターのライバル関係がアイスとマーヴェリックの関係を思い起こさせるが、あまり熱量のある描かれ方ではないな…と思ってたら、終盤、「グース、ごめん…」とマーヴェリックとルースターが敵機に撃ち落とされる寸前に、ハングマンが助けに表れる。うまいこと作ってるなあ、と感心した。

空母や空港で飛行機を整備する人々の姿を冒頭と終盤に映している。そこら辺はトニー・スコット版と同じなのだが、スコット版の方がもっと整備士がカッコよく、リスペクトを持って描かれているように感じたのは不思議である。序盤だけ見直したが、あちらは戦闘機の翼に触れないように身を屈め、うまく飛び立ったらガッツポーズを取る整備士の姿を冒頭で描くのに、結構な尺を取っている。しかしどちらも、戦闘機を飛ばせるには地上で働く何人もの人間の協力があってこそ、という描写としてそのシークエンスがある。映画作りそのものの過程を、その場面に勝手に重ねてしまった。
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