レインウォッチャー

劇場版 Fate/stay night Heaven's Feel II. lost butterflyのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

4.0
Fate / stay night シリーズの完結編となる桜ルート、第二章。

おばあちゃんが言っていた。「紫髪はだいたい地雷」だと…

ついに、と言うべきかようやく、と言うべきか、爆誕する黒桜。
彼女の狂気や卑屈は因果を孕んだ運命(まさにfate)によって時間をかけてシリーズ全体の本質により醸成されたもので、単にストーリー展開上の闇堕ちとも呼べない深みのある設計だと思う。

何にせよ、「くうくうお腹が鳴りました」の誕生セレモニーは戦慄の一言。
ここに至るまでの不穏と恐怖の積み上げはほとんどホラー映画のそれで、「これってFateだよね…?」と毎分確認したくなるし、過去作においてあれだけ無敵の象徴だったアイツまで贄にしてしまう展開で煽りに煽る。
もしスカーレット・ウィッチが日本に攻めてきても安心だね。こっちには間桐桜がいるんだから。(メンヘラにはメンヘラをぶつけんだよ理論)

それは、桜のむごい半生に前章からすっかり肩入れしてしまった身にはピカレスク的な祝福としても響き、もう思う存分暴れたらいいよ!という気持ち。たとえ3章がずっと桜無双で滅亡ENDでも文句は言わないだろう。

また、今作は『heaven's feel』において主人公・士郎を通した大命題が決まった章でもある。つまり、「桜だけの正義の味方になる」ということ。
このたった一人の女の子のために…というエゴは、過去作で目の前の全てを救う「正義の味方」を目指していた士郎とはかなり大きく異なる方針であり、よっぽど共感しやすい。

もともと『stay night』シリーズって、なにやら世界全体の命運を左右するくらいのことが起こっているようでありながら、聖杯戦争は一市内のめちゃめちゃ身内で完結してたりする様に見える…という変なスケール感の物語なので、これくらいのセカイ系的ベクトルがちょうど良いのかもしれない。

最後に、無印から今作に至るまで10年以上に渡って「本当に良いところがないクズ」を最高に演じ切った神谷浩史さんには心から拍手を送りたい。貴方がいなければ、きっとシリーズは成り立っていません。