MikiMickle

プーと大人になった僕のMikiMickleのレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
4.0
まず、最初に2つだけ悪い所を言う。
・クリストファー・ロビンのお父さんの描き方が許せない。お父さんは、クリストファーの為にこの小説を書いた原作者のA・A・ミルンであり、夢と幻想に溢れた人だった。それを冷徹な人物に描いたのは、たとえストーリー的の設定だとしても、なんか違うなと思う。
・大人のクリストファー・ロビンの吹き替えの堺雅人。吹き替えのプーたちの声で慣れ親しんでいたため吹き替えで見たけど、堺雅人すぎるし、ユアン・マクレガーの雰囲気とも全然違うし、なんか嫌だしイラつく。後半は慣れてはくるけど、なんでもかんでも俳優を起用する配給会社にはイラつく。


しかし、そんな事はすぐにどうでもよくなるような、素敵な作品だった。

とりあえず、オープニングだけで泣きそうになる。というか、泣いた…… プーの後ろ姿……ここからすでに胸鷲づかみ。愛おしくて苦しい……

子供の時から幾度となく見てきたプーさんの100エーカーの森の世界。多分、人生で1番観た映画が『くまのプーさん』だと思う。100回以上は見てると思う。
プーとクリストファー・ロビンとの関係性は、元々の作品から“いつか終わりがくる”ものだった……
だからこそ、あの作品たちが名作であり、素晴らしいものであるのだと思う。

今作は、その、終わってしまった世界が舞台。仕事ばかりになってしまったクリストファー・ロビン。一人娘との時間も持てず、妻からも心配されつつ、苦言を受ける。そんな中、本当に大事なものを、1番大事なものを、子供の時に1番大事だったプーたちとのありえない出会いによって見つけていくというストーリー。


言いたい事は山のようにあるけれど、
とにかく1番は、100エーカーの仲間たちが可愛いという事。とにかく可愛く、切ない。
実際のクリストファー・ロビンが子供時代に大事にしてきた仲間たち。
クリストファーの父である作者のミルンが息子のために作り始めた小説と、アニメの愛おしい仲間たち。
世界中で愛されてきた作品。それが実写になる事は、製作者にとったら恐ろしく難しい事だったと思う。
しかし、原作やアニメの良さとユーモアさと愛おしさ・切なさを見事に再現していて、胸が熱くなる。汚くなりへたったぬいぐるみたちの描写は、一方ではクリストファーに大事にされてきたという事でもあり、一方では何十年も忘れ去られた悲しみさでもある。100エーカーの森の深い霧やダークグレーな世界も、うまくクリストファーの気持ちを表現していた。

また、様々なシーンにおいて、過去の小説・アニメの名シーンをきちんと織り込んでいるのがファンにはたまらないものだった。ティガーの陽気な自己紹介や鏡に写った自分の姿への反応・壊れたオウルの家・逃げ込む倒木の穴・プーの朝の体操・パーティーでカップを叩いて注目させるラビット・ズオウとヒイタチへの恐怖や、落とし穴・風船・風船が繋がれたクリストファーの三輪車… 棒投げをした小さな橋、流れてくるイーヨー。イーヨーの尻尾など…ひとつひとつへの細かな描写に、原作への溢れる愛情を感じ、嬉しく楽しくなった。それぞれのキャラの個性と、可愛らしさと、なんとも言えない切さなを描いていた原作を、きちんと表現してくれていて、有難かった。

そして、とても大事なシーンのひとつ。何もしないこと。倒木に腰掛けるクリストファーとプー。ゆったりと、ゆったりとした時間……この雰囲気も大事に表現してくれたと思う。そのゆったりさと変わらなさと、大人のクリストファーの慌ただしい時間軸が絡まり合い、現代社会の働きすぎな事への提唱となっている本作。変わったクリストファーと、変わらない彼らの対比から描き出す、切なさ……愛おしくて、涙が止まらない。
大人になった私。今でもプーさんのアニメはたまに見返すのだけど、その度に子供時代を思い出す。小さな探検や、小さな妄想や、あの時大事にしていたぬいぐるみたち…その気持ちを上手く映像化してくれたなと思う。

正直、ストーリー的には目新しいものでもないし、現実に置き換えたらと思うと現実はそんな甘いものでもない。生きていくための犠牲は人それぞれだ。そして、観る人によっては、これを現実的に捉えるかどうかで分かれると思う。
しかしこれは、現代のおとぎ話なのだと私は思うし、あくまでおとぎ話であるこのクリストファーの話で、自分に置き換えて様々な事を考えさせられる時点で、良い作品なのだなと感じる。現代の疲れた社会人への、愛ある作品だなと思う。

余談。社畜と化した大人のクリストファー・ロビンが帰宅する時間が9時半………… 日本人ってつくづく社畜まみれ……(笑)
MikiMickle

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