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億男のbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

億男(2018年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

評判が悪そうだが、個人的には結構好きな映画。

キャラクターは全体的に漫画のようなリアリティーの無さなのだが、その中で主人公だけがあまりに普通の人間として描かれている。ここまで極端な設定やキャラ造形にすることにより、現実的な話ではなくある種の現代的な寓話として観ることができる。ツッコミどころばかりだという批判があるのもわかるが、ここまで現実感がない作りだと逆に気にならなかった。

佐藤健と高橋一生が素晴らしい。佐藤健はあんなにイケメンなのに、"どこにでもいる人""市井の人"を演じさせたら本当にピカイチだと思う。常にちょっと冷めたような諦めたような姿勢、自分を卑下しつつも虚栄心を捨てきれないあの感じ、彼の繊細な演技はとても良かった。そして高橋一生も極端な難役を見事にこなしていたと思う。嘘くさい現実離れしたキャラクターを、しっかりと"人間らしく"落とし込んで演じている。

お金は人を変えてしまう。大金を手にしたときにも変わるし、大金を失ったときにも、借金を背負ったときにも、極端な話、お金を欲しただけでも、お金を失いたくないと思っただけでも、人は変わってしまうのだ。競馬で超高額配当金を得て、それをたった1レースで全て失って、そして実はそもそも最初から全く馬券なんか買っていなかったことを知らされる、あの競馬場での一連の流れが辛辣で好き。「その金はお前の頭の中で行ったり来たりしただけ」という、お金って"概念"なんだということを知らしめる強烈なエピソード。あえて公営住宅で質素な旦那と貧乏な生活を送りながら、実は壁や床に大金を隠し込んでおりそれに囲まれて生きているという安心感でバランスを取っている女の話も好き。

主人公が妻と仲違いしてしまうエピソードも個人的は結構刺さった。少しでも出費を減らして借金を早く返したい主人公と、借金の返済が延びて苦しい思いをしてでも娘の幸せのために使うお金は減らしたくない妻。生きる上で何を最優先にすべきか、そのことが、お金が絡むと途端に冷静に考えられなくなってしまう。

あのまま宝くじの高額当選金を手にしていたら破滅していたであろう主人公が、親友のお陰で様々なものを感じたり目にすることができたために、おそらくしっかりと借金を返して真っ当に生きていそうなラストで映画は終わる。家族は元に戻れなかったけど、希望がないわけではない。お金が入ったからじゃなく、主人公がお金に振り回されることなく生きていけるようになったから。入った大金で最初に主人公が買ったのは娘の小さな自転車であり、これが金額にかかわらずこのときの彼にとって一番価値のあるものなのだ。

勘違いされがちだが、別にこの映画は「お金よりも家族や友情のほうが大事!」というメッセージを発しているわけではないのだ。もっとフラットに、「お金の価値を決めるのはそれを手にした人間である」「お金に振り回されずに自分を見失わずにいたい」という話ではないだろうか。個人的にはなかなか良い映画だったと思う。
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