ねぎおSTOPWAR

1987、ある闘いの真実のねぎおSTOPWARのレビュー・感想・評価

1987、ある闘いの真実(2017年製作の映画)
4.0
1987年をピークにした韓国の民主化運動を描いた作品。
圧倒的な事実と民衆のパワーに心が押しつぶされそうになる2時間でした。

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先輩が韓国で日本人カメラマンとしてこの当時活躍していたんです。今は地元でゆっくりされていますが、大変だったそうです。
ソウル五輪もあって、日本の取材スタッフが来て、通訳兼カメラマンとして意思疎通ができると引っ張りだこだったようです。

この映画の時期の大統領はチョン・ドゥファン。暗殺されたパク・ジョンヒ大統領の次を担ったんです。
この頃の韓国は実は軍事政権。パク・ジョンヒは韓国国民には黙り、日本政府との戦後補償(実際は日本は国内に「戦後補償ではない」と説明)にサインした人。そう、つまり日本側は占領時、戦時中の補償を金銭にして払ったわけです。パク・ジョンヒはそれを国民にきちんと説明せず、また補償されるべき人に配布しなかったために今の戦後補償の混乱があるんですよね。(日本は「戦後補償ではない」と言っていたのに「戦後補償は終わってる」と言い換えました)
で、そのお金を保障に使わず国の復興に使った。=漢江の奇跡=>経済復興を成し遂げたと。
(同時にベトナム戦争に参戦したことでのアメリカ絡みの経済支援もあった)

この映画で《アカ》だと取り締まられた、主要対象者の写真の中に金大中キム・デジュン元大統領(ノーベル平和賞)もいました。彼はパク・ジョンヒとの選挙に負けると、パク・ジョンヒの戒厳令→粛清に遭い、日本での拉致事件などもあり大変な人生を歩みました。
パク・ジョンヒが暗殺され、翌年が「タクシー運転手」に記憶が新しい光州事件(キム・デジュンの故郷)。1980年ですよ。この民主化に向けた思い、運動は高まり、同時に弾圧も。


考えてみれば日本でも安保闘争がありました。学生が殺されたり、逮捕されたりしていました。世代が進むうちに忘れちゃってるだけです。
そして韓国には、この1987を学生として過ごした方々がいて、50歳前後なんです。わたし同い年。
*文中の大統領はすべて敬称略

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<俳優のこと>
主演キム・ユンソクさんはこの役のために相当太ったでしょうね。「韓国のおっさん役者はソン・ガンホだけじゃねえ!」とばかりに映画史に残りそうな名演技です!政権側に立つようで実はそうではない。同床異夢。自分の出自から来る思いと怨念。迫力が凄かった。

みんなに匿われる運動家キム・ジョンナム役はソル・ギョングさん。「監視者たち」「殺人者の記憶法」の彼とは別人のよう!さすがカメレオン俳優です。出演シーンは少ないものの、寺での作業姿は堂に入っており、教会での逃亡劇も力入りましたよね。

おまけにヨニ役キム・テリさんは「お嬢さん」の侍女です。
そしてご存知「ファイ」のファイくん=ヨ・ジングさんはソウル大生パク・ジョンチョル役。
ハ・ジョンウさんは安定の演技と、まあ豪華キャスト!

<映画・作品として観た場合>
事実だから仕方ないのですが、地検vs警察? かと思ったら、看守+運動家vs警察+政府? かと思ったら、運動家学生+巻き込まれる看守の姪の話? かと思ったら警察内部の主権争いまで・・。
主題がぼやけた感は否めないかなあ。

あとそれぞれの役職と名前が表示されるストップモーションとタイプライター音が少々諄かった。そして中央日報と東亜日報が出てきましたが混乱要因でした。(これも事実なのだとしたらもう仕方ないのですが)ひとつの新聞社といたほうが良かったのでは?新聞社の個性や、日本人にはわかりえない何かがあったのかなあ・・。