MasaichiYaguchi

1987、ある闘いの真実のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

1987、ある闘いの真実(2017年製作の映画)
4.1
ソン・ガンホ主演の「タクシー運転手 約束は海を越えて」では1980年に起こった光州事件が取り上げられていたが、キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・へジンという実力派キャストたちによる、ソウル大学生拷問致死に端を発した1987年の韓国民主化闘争のうねりを描く本作は、良心や志を持って夫々の立場で行動する人々の姿や、物語が内包する熱さに心揺さぶられずにはいられない。
それにしても本作で描かれた物語は僅か31年前の出来事であり、日本はバブル景気に浮かれていた頃である。
光州事件もこの民主化運動も海外ニュースで知ってはいたが、好景気の世の中にいた当時の私には〝対岸の火事〟程度にしか捉えていなかったと思う。
当時の建物を模した大規模なオープンセットを作り、衣裳や大道具、小道具に至るまでリアルに見えるようにした本作は、その再現された舞台で繰り広げられる不正や理不尽、そして発覚しそうになると〝臭い物に蓋をする〟ように揉み消すという余りの非道さに驚きと怒りで震えてしまう。
光州事件で起きた熾火は、1987年のソウル大学生拷問死の発覚によって、恰も燎原の火のように韓国民を巻き込んで拡大していく。
確かにこの映画で描かれたのは隣国の過去の出来事かもしれないが、作品の根底にあるものが〝歴史の鏡〟として右傾化する世の中にいる我々を照らしているように思える。