きよこ

万引き家族のきよこのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.8
なんだろう。この映画。
観てから数日たつのにレビューが書けない。でも、ずっとあの家族を思っている。思い続けている。祥太とりんちゃんは…ちゃんと笑っているだろうか?

どこからか、ふと匂いたつような映像。しっとりとじっとりとしたカメラワーク。埃っぽい湿気に覆われる世界。あの食卓は汚いし、それぞれ勝手な方向を向いて食べてるけど、とても暖かい言葉が飛び交う。だから、一時も目が離せなかった。私の心を掴んで離さなかった。


実際は短絡的で身勝手な愛に溢れていると思う。大人のご都合や欲望が見栄かくれしながら。でも、愛しいのはなぜだろう。あの家族を取り巻く環境全てが印象に残るシーンとして、完璧だった。花火のシーンはとびきり素敵でくすぐったくて仕方がなかった。もちろん、海のシーンは最高!松岡茉優ちゃんの白くてたわわな(みんな好んで使ってるワード…)御胸にしばし眼福に浸った。

しかし私の中に、この家族を受け入れない何かがある。何かに囚われている。そうだ。違和感でしかない生活。疑似生活、疑似家族。家族はそんなに簡単なものではない。血が繋がっているだけで、愛も情も薄く、ときには憎しみあう。そんな家族の鎖にがんじがらめになっていることだってあるんだ。

努力してコツコツ働いてきた人達がいる。安い年金にも関わらず、生活保護も受けずに、ほそぼそと暮らしているお年寄りを思ってしまう。そんな人を思いながら、美談にはしたくない気持ちに囚われていたのかもしれない。もっと、自分に社会に真摯に生きていけないのか?

でもそれが出来ない人もいる。生きていく中で、劇中の彼らは境遇を受け入れながら身勝手な幸せを求めて、いたわりあい、居場所を見つけていたのだろう。

安藤サクラのあのシーン。正直私は泣けなかった。なぜなら対峙するシーンの警察官の台詞が当たり前の綺麗事過ぎて、腹が立って腹が立ってイライラしたせいだ。あの台詞に全てアドリブで答えたと聞いてかなり衝撃的だった。まさに彼女は信代だったのだ。


何かを盗むときもある。欲しくなることもある。欲しがることもある。正しいことではないかも知れない。全ては本物ではなく、拾ったものかも知れないけど、今その瞬間に愛があれば救われるんだ。それは刹那的かも知れないけど。それでいいんだと心から思う。

これからも。。。


ラストにりんちゃんの瞳に映るのが、彼女である事を願いたい。


樹木希林様。義歯を外してのあの横顔。決して忘れません。圧倒的存在感。あの声なき台詞。最高です。ありがとうございます!
きよこ

きよこ