このレビューはネタバレを含みます
【酢】
ヴィンテージなワインだからと、長年大事に出し惜しみして、ここぞという一席で開栓してみたら酢になってた! なんて話をたまに聞く(実際、発酵するわけじゃないので酢にはならないそうですが)。
いずれにせよ、21年も放っておいたら、どうなるか?
何の話かというと、公式サイトの解説に、こうある。(抜粋)
「多くの人々に尊敬されている85歳の映画界の最長老、名匠エルダル・シェンゲラヤ監督が、21年ぶりに完成させた」
それが本作。
さぁ、怖いもの見たさに、古い古いワインの栓を抜いてみようという余興好きなあなたは、どうぞお試しあれ!
グルジアファンは、「おぉ、クヴェヴェリ(ワイン甕)が本当に土ン中に埋まってる!」と喜び、「タマダ君だぁ」「お、チュルチヘラ?!」とか、「ナウシカのコスチュームのモデルだね、この民族衣装」なんてことを眺めながら、エンドロールにズラリと並ぶ、ブドウの蔓から生まれたと言われる可愛いグルジア文字に「萌え~♪」となって、最後まで楽しめます、ゾ!と。
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(ネタバレ、ほとんどなし)
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権力、あるいは権力の座を揶揄した、というより、ズバリそのものである「椅子」が原題。久しぶりにグルジア(ジョージア)映画界にもユーモアが戻ってきたらしいが、それは、お国の中で楽しんでください。
これを、海外の目の肥えた映画ファンに、普通に見せたら馬鹿にされます。持って来るなと言ってるのではないです。見せ方、宣伝の仕方が他にあったのではないかと、非常に残念。
とことんギャグに徹し、諧謔に満ちた作品そのものは、それはそれで意味あることかもしれない(ジョージアの国内の映画史の中での位置づけとして。恐らく)。
それを、巨匠が云々、21年ぶりの人生賛歌と持ち上げて、「虚言に満ちた権力社会を風刺」した作品であると、内容を正面切って宣伝していない予告編が、なんと虚言に満ちていることか。
大らかなユーモア? 故郷への愛? いや、徹底して権力を小ばかにしたコメディでしょ。邦題タイトルも、しかり。ミスリードを助長します。かなり、ひどいね、これは。
予告編は、ある意味とても「よく出来て」います。シーンの前後を入れ替えて巧みに編集。それを見て、誰もが想像するような内容に本編も落ち着いていれば、それなりの物語になったのでしょうね。ただ、それは別の物語です。
この予告編は、そうした無難な作品にしてくれたらよかったのにという観る側の勝手な願望を形にした、制作意図を無視した、非常に悪趣味なもの。鑑賞後に見ると気持ちが悪くなる内容です。
勘違いさせられた分、誠意をもって観賞しようとしているこちらの思いが、反発となって、評価を一層下げる結果になるということに思いを馳せてもらいたい。
貴重なジョージア映画の岩波ホールのラインナップには、今後も期待してはいるけど、この手の不誠実な誘導は、もう二度としないで欲しいかな。頼みます。
(配給は別の会社名がクレジットされてるから、岩波さんの責任じゃないのかもしれませんが)