しゅんまつもと

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

4.6
身勝手な論理を振りかざして容易く誰かの命を奪ってしまうような不条理がすぐ隣にある。思い当たるようなことが自分たちのすぐ近くでもあるでしょう。1969年と2019年はもしかしたらそう変わらないのかもしれない。
それまで当たり前に続くと思っていたその人の人生ははそこで途切れるのだ。「人生」なんて言い方は浅はかかもしれない。その人がいつか奏でたであろう音や綴られたであろう文章、彩る色や描く線、もっと普遍的なことで言えばスマートフォンで捉えた写真や誰かと交わした言葉は産まれないままに終わってしまうのだ。そんな、そんなことが簡単に起きていいものか。
「死」は「生」の前では圧倒的だ。凄惨な事件の「被害者」になってしまったら、まるでそれまでがなかったかのように塗りつぶされてしまう。違う。そうじゃない。そうじゃないはずだ。道が途絶えた岸壁よりも、確かにそこまで歩いてきた道にこそ意味や価値はあるはずだ。一見平坦に見えるこの映画の前半から中盤にかけての描写のひとつひとつは、シャロン・テートという女優のそんな道を確かに捉えている。

命としての「生」だけではない。夢についても同じだろう。夢が途絶えたとしたらそれまでの道は語られる価値はないのか。そうじゃない。この映画で描かれるリックとクリフの歩んできた道は、辿り着いた場所には確かな意味がある。

目を塞ぎたくなるような現実に立ち向かうためには人は想像し、考えて、行動するしかない。不条理を掲げてくるやつらにはとことん中指を立てて燃やし尽くしてやるしかない。ファック!


しかしこのブラピの魅力はなんだろう。クリフがリックの家から帰るシーン。夜のハイウェイを疾走する車を後部座席から、並走する車から捉えたカットは思わずため息がもれるくらいにかっこいい。