しゅんまつもと

夜明けのすべてのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
"たまたま隣になっただけの人"にやさしくあれるか、という問いは今日の世界においては誰しも肩身が狭くなる。
そうありたい。でもそれって言われてできるほど簡単なことじゃない。だって隣にいる人のことなんて宇宙のことと同じくらいわからない。自分のことだってよくわからないしコントロールできないのに、まして人の内側のことなんてわかるわけがない。その距離の映画だと思った。やさしい世界の話でも、PMS/パニック障害の困難の映画でも、現代の生きづらさ/ままならなさの映画では決してない。と自分は思う。

内側と外側は映画全体に通底するモチーフとして描かれる。部屋の内と外、それを隔てる玄関口。栗田科学の事務所の構造(奥に一段上がって中が見えるもう一室がある)、倉庫の段ボールの中にあるもの/それを取り出す人、掃除される車の中と外、移動式プラネタリウムの中と外。

少し見方を変えると会社のイメージと実態、みたいなこともそう言える。
穏やかさと優しさで包まれた栗田科学はかつてどんなことがあって今の体制になったのか。一方で山添くんがかつて働いていた会社はどうなのか。そこで泊まり込みで働くことを辞さないあの先輩は。
大企業と中小企業とネームプレートは簡単につけられるけれど、その中身には同じように澱んだものが流れ込むことがある。決して外側からだけではなにかを見定めることなんてできやしない。

もちろん、わたしたちはわかり合いたい。だれかにやさしくしたいし、そうされたい。
だから世界や他者との距離を見つめなければいけない。数万光年のその距離を、どら焼きひとつ分の距離を、お守りひとつ分の距離を、暗いトンネルの向こう側までのその道を、その足で、たまには自転車で、辛い時にはその自転車を押しながら埋めていって、なんてことないことで笑いたい。それだけはきっとみんな同じはず。

この映画を見ていて、あるシーンで映画館が微笑みと爆笑に包まれた時、おれはそれに近いものを感じた。大好き。