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バイスのdojiのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
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理念はないのか、とドンにチムニーが聞いたのは、そのままそれがじぶんに当てはまるからだと思う。ラストにかけてチムニーが語る、愛する人を守るということに関して、彼の中でも決して嘘はないのだろう。娘のカミングアウトにもためらわずに受け入れてあげるだけのこころは、少なくともチムニーにはあったはず。

複雑になっていく世界で、多様性に対して頑なに目を背けようとするひとたちをみていても、一概に悪だとは言えないことがほとんどだと思う。家族さえよければいい、というのはある意味では正義ですらある。それでも、その先にある暴力や死に対して、なにも感じないこと、目を向けようとしないのことは、どうしてもその人物を悪だと思わざるを得ないほどのおそろしさを感じさせる。映画はそれを笑えないコメディとして、家族団欒の裏で爆弾を落としていく。

アメリカという巨大な国の政治家という人間たち、そのあまりにも卑小な精神と、巨大すぎる影響力が生んでしまった死、死、死…。そりゃワイルド・スピードとか観てるほうがいいよな、と思いつつ、こんな世界で生きていかなきゃいけないのかと思うと暗澹たる気持ちになった。まったく、笑えない。
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