砂

父、帰るの砂のレビュー・感想・評価

父、帰る(2003年製作の映画)
3.9
近年注目を集めるアンドレイ・ズビャギンツェフ監督作。
不通だった父親の12年ぶりの帰郷に戸惑う兄弟を描いた映画。

冒頭のエピソードで明示されるように、兄アンドレイと弟イワンの性格は対極である。
強権で厳しく、寡黙な父に対し、アンドレイはうまく接しようと調子を合わせられるが、まだ少し幼いイワンは懐疑・反抗的で意固地。
久々の家族団欒の食卓も緊張感で満ちている。家庭に入り込んだ異質な存在のようだ。

小旅行の中でも兄弟と父の間に意思疎通の描写はなく、ほとんど主従の関係。予定の変更も、説明はしない。言葉ではなく、すべてを行動で示す。父性の塊のような存在である。反抗的なイワンに対しては罰を与えるが、こういった出来事もあり不満を募らせていく。

3人だけの旅は車から船を介して無人島へと向かう。
そして、不和を元凶とした予期せぬ展開を迎える。
冒頭にも表れる塔が、この島でも大きな意味を持つ。

イワンにとって父はほとんど不在の者であり、父親として確かな存在ではない。
パパ、と呼ぶのも命じられたからであり、その呼び名は他人のそれとして次第に変化していく。しかし、最後の最後には大きな声でパパ、と叫ぶのである。
兄弟はそれぞれ、父との数日間の旅の中で行動によって示された、遺されたものを学んでいく。

作中での説明がなく、行動についても示唆的な描写でとどめることが多いのだが、電話の相手や父が島で掘り起こした箱の中身はなんだったのだろう。それこそがまさに映画そのものの象徴なのだろうか。

精緻なカメラワークで、写真的・絵画的なカットが印象的。
特に自然風景や、陰影のついたカットは非常に美しい。
本人も認めている通り、タルコフスキーの映像を観た時の印象が近い。
他の作品も観ようと思う。
砂