この映画はホラーというよりも、長男ピーターがもがきながら転落していく悲劇の物語ですよね。彼の失敗が原因で家族全体が崩壊していくさまを、見せつけられるような辛い映画。長男がたった一つの「取り返しのつかない失敗」をしてから、その罪悪感に押しつぶされ、どんどん深みにはまっていく姿は本当に胸が締め付けられる思いでした。
が妹を不慮の事故で亡くしてしまうシーン。これが彼の人生を決定的に変えるんですが、普通ならそこから「罪を乗り越える」なり、「贖罪の道を歩む」なりの選択肢がありそうなものなのですが、アリアスター監督はそんな甘い道を一切許さず、ピーターをさらなる絶望に追い込むのですよ。どうにかして彼が救われてほしいと思うけれど、その思いがことごとく打ち砕かれてしまうもどかしさがあるのです。
そして、この映画全体を通してのテーマである「家系の暗い因縁」。死んだ祖母が残したのは家族への愛情じゃなく、呪いと狂気の種で、それが世代を超えて受け継がれている。そして長男は、まるでその呪いに囚われた「犠牲者」でありながら、皮肉にも「最終的な継承者」として逃れられない運命を辿る。この容赦のなさ、ホラーというよりもはやギリシャ悲劇を思わせます。
そしてラストシーンがもう究極的。
長男は結局、家族に受け継がれてきた恐ろしい呪いの運命を引き継いでしまう。その瞬間、彼の「自我」が完全に消滅し、代わりに家族の「宿命」が彼を支配する。要するに、彼は自分の人生を完全に喪失し、家系の呪いに体も魂も支配されてしまうわけです。これって、普通のホラーのように「怨霊を払う」とか「悪を討つ」ではなく、むしろ「呪いそのものと一体化する」という究極の恐怖で、これは本当に不気味でゾッとする展開。
結論、長男のもどかしくもどうしようもない転落を通して、「家族が持つ暗い遺産」や「個人ではどうしようもできない運命」に対する恐怖を突きつけてくる映画です。