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未来を乗り換えた男のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

未来を乗り換えた男(2018年製作の映画)
4.0
[ズレと遅延の現代ノワール] 80点

初ペッツォルト。ファシズムが吹き荒れるドイツがパリを占領し、亡命してきたドイツ人の主人公ゲオルクが、偶然遭遇した亡命ドイツ人作家になりすましてマルセイユに潜入する話。明らかに舞台は現代なのに、衣装やいくつかの小物は40年代のようで、ふとした瞬間は時代劇のようにも見える不思議な作品。現代におけるファシズムの直喩だが、映画全体のテーマはそれを糾弾することではなく、"皆が自分自身のことを語る街"マルセイユで、それぞれが自分自身の世界にいることで噛み合わなくなってくる相互関係性を描いており、その不気味さはさながら現代版ノワールのようだ。古典的な赤いドレスを纏ったパウラ・ベーアの神出鬼没さも、伝統的なファムファタール像からノワールっぽさを裏打ちしている。しかも、それすら形骸化しているように感じる空虚さもまた、同時代性を帯びているようでとても良い。

最近のペッツォルトはニーナ・ホス&ロナルト・ツェアフェルトで二作、パウラ・ベーア&フランツ・ロゴフスキで二作撮っているので、最新作『Undine』を観るための予習として最初に選んだ次第。来年こそペッツォルト制覇を目指したい。
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