芹沢由紀子

家へ帰ろうの芹沢由紀子のレビュー・感想・評価

家へ帰ろう(2017年製作の映画)
3.9
これは猛烈に良かったなあ!

最近観た「ペコロスの母に会いにいく」と構成も作りもストーリーも似ていたけど、完全に老人が主人公なこの作品は、大陸横断ロードムービーなこともあり、重厚感があった。

以下にネタバレ多々ありますので、ご注意を!

まずのっけから、孫娘とのやり取りでこのおじいさんが大好きになる。
ダンスをソロで踊っている姿もサマになってる。
おしゃれ。

家を追い出されて旅に出るおじいさん、という題材は「ハリーとトント」を彷彿とさせるけど、こちらはホロコーストの被害者という下敷きが横たわるので、途中からものすごく重々しくなる。

だが、旅の途中で出会うキャラたちが、みんないい人で素敵なので、楽しい。旅の過程で主人公の過去が蘇っていく。何年経とうが、その後の人生成功して、娘たちやたくさんの孫たちに囲まれてても、絶対に傷つき蹂躙された過去は消せないし、許し忘れることなんてできないのだと思い知らされる。

とくに、親切にしてくれたドイツ人の女性学者が、「もう70年たってるのよ、若い人も過去を勉強して責任を全うしようとしている、あんたが価値観を変えなさいよ」とやんわり説教するシーン。

彼女は私たち見ているサイドの代弁をしてくれてるんだけど、そのあとで、駅の乗り換えのホーム。
主人公が自分の家族の罪について語りだすと、私たちは彼に説教したことを恥じずにはいられなくなるほど心をえぐられる。

余談だけど、
かつて観たドキュメンタリー番組で、ハンセン病の隔離政策で、施設に入れられ、強制的におなかの子供を堕胎させられた女性が、60年以上たち、90歳近いおばあさんになっているんだけど、最近になってようやく、当時堕胎された赤ちゃんのご遺体が(ホルマリン漬けにされて保管されていた)、国から返還されたのがおばあさんのもとへ帰ってくるのを取材されている、という内容。
おばあさんは、もう60年以上むかし(もっとだったかも)のことなのに、つい昨日のことのように覚えていて、60年以上1日も忘れたことはない、といって嘆き悲しみ、泣きながら「ごめんね、ごめんね」って赤ちゃんの遺骨に手を合わせていたんだよね。
その映像の威力って、すごいんだ、愛するものと引き裂かれる苦しみとか、つらさ、癒えることなんてない。
そういうのを思い出させてくれた。


大陸生まれでも育ちでもない、単一民族で島国ニッポンで育ったので、本当の意味ではこの映画を理解できないし、楽しめていないことは否めない。が、それでも胸に迫る思いを味わえて、観てよかったと思えるし、人にも勧めたいともおもう。

絶賛してますが、ツッコミたい部分もかなりあります。
とにかく美しい女性ばかりが主人公を彩る。
娘や孫娘でなくてもよかったのでは?
べつに息子でも、孫も男の子でもよかった。
親切な看護婦さんも、おばさんでよかった。どうしても若くてきれいな女性たちにちやほやしてもらう発想がよくわからない。
最期のブロマンスも唐突だけど、あの部分を引き立たせるために、いい女にモテモテの主人公という設定が必須だったのか‥‥

とにかく不自然で、最初の飛行機で隣になった移民の男性以外に女性ばかりが目立ったので、気になって感情移入の邪魔をされたような気がする。

男性主観で男性主人公の映画を、不自然を感じさせず、最後まで観れないのはちょっと残念。自分が中年主婦だからというのも関係あるでしょうけど。
芹沢由紀子

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