このレビューはネタバレを含みます
ポーランドからアルゼンチンへ移住した88歳の男性が、戦後に別れた友人に「最後のスーツ」を渡すべく、かつて匿われていたポーランドへ帰る旅の話。
年老いて身体のいうことを利かず、偏屈で子ども達からは疎ましがられ、ついに「ホーム」へ入れられてしまうのはどこの国でも同じですね。孫がこまっしゃくれた口をきくのも、よくある一コマです。
とある地下組織の建物に入ったときに、ユダヤ教の服を纏った人たちがいたこと、彼の名が「アブラハム」だったことあたりから、何となくこの映画の視点が見えてきました。
日本の保守論壇人たちから、当時ポーランドにいたユダヤ人と日本の関係を聴いていますが、作品を観て、この老人の徹底したアンチぶりに通じるものを感じました。あの時に自分たちを救ってくれた存在に対して、強烈な恩情を表現されることは、インタビューなども見ており胸に沁みる思いです。
一つ疑問なのは、パリにいる娘の腕にも「番号」が刻まれていたこと。どういうことでしょう。
また「ドイツの土地を踏みたくない」気持ちは解るし、列車の中がドイツ人だらけなことに体調が悪くなる展開についてもお国柄でしょうか。
日本であれば、当然パニックになることは想像できるので予め医療室などに隔離してもらう、とか相談しそうなものなのに。いきなり倒れて、目覚めたときは…な話の運びは、ラテン系ならではの豪快さかもしれません。
また、パリで起こるシーンは、いかにもなポリコレに思えてしまい、微妙な気持ちが-1.4となりました。
ラストで友人と判るシーンは、極端に感動を煽らない演出がとても嬉しいです。
これから、アブラハムはどうなるのでしょうか。
そして今も「彼らの家」はどこにあって、なにを思って生きていくのでしょうか。
粗い作りの中にも、大きなテーマを描いたことに◎です。