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ライトハウスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
4.1
 不本意な大シケの中で船はゆっくりと不安定な姿を曝す。その姿が果たして海に浮かんでいるのかどうかはよくわからない。だがゆっくりと対照的な性格と年齢の2人の灯台守はニューイングランドの孤島の沖へと上がるのだ。親子ほど年の離れた2人の関係は当初から不協和音が流れる。いかにも熟練の男トーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)は高圧的な態度でイーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)に今日の仕事を命令したかと思えば、狭い空間で不快な放屁をかます。義父のような粗暴な男の暴力的な態度にウィンズローはあからさまな不快感を示す。いかにもロバート・パティンソンにぴったりなナーバスな表情は日に日にやつれ、疲れ切っていく。光が唯一のエネルギーかのごとく、2人を嘲笑うように照らすのだが、その光を暴君は独り占めしようとする。男性器のメタファーともなり得る灯台は真に閉鎖的な空間で、光を取り入れることが出来なければ一生閉じ込められるような錯覚すら引き起こさせる。まさに精神の均衡を保とうとするギリギリの空間の中で、2人の陰部が徐々に姿を現す。

 今どきシネコン公開の作品で観ることが出来るとは思わなかったフリッツ・ラングの30年代の作品のようなほぼ正方形のフレーム・サイズ。デジタルに反するような35mmのモノクロームの質感は、2人の息詰まるような苛烈な心理戦を静かに盛り上げる。しぶきを上げながら激しいうねりを繰り返す大波、人の肉体をついばむ海鳥のくちばしと不気味であまりにも奇妙な夢。いかにも『ウィッチ』の監督が好みそうな魅惑の灯台がセイレーンを呼び寄せるようなホラー方面は選択せず、極限の世界に幽閉された2人の心の変化をクローズ・アップで丁寧に紡いでいく。自身を他人の人生になぞらえ、偽装し生きる男の仮面の下に隠された狂乱の世界。優れた灯台守に憧れ、人生を生き直そうと決意した男は皮肉にも光を掴むことが出来ないまま、悪魔と契りを交わす。生まれ持った野蛮さを隠そうとしないウィレム・デフォーの熱演も見ものだが、ウィンズロー役がロバート・パティンソンでなかったらと思うとそれはそれで恐ろしい。109分間、世界の憂鬱を一手に引き受けたかのようなロバート・パティンソンの演技が光る。
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