KnightsofOdessa

ホワイト・ボイスのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ホワイト・ボイス(2018年製作の映画)
3.5
こんなことがあった。
帰宅途中、久し振りにTSUTAYAに寄って通学中に見る映画を物色していたところ

"すいませーん"

と声をかけられた。いつも以上に顔が死んでいたので私に声をかけるのかと不思議に思ったが取り敢えず声のした方を見ると、20代真ん中くらいの青年がこちらを見ていた。

"おすすめの映画、ありますか?"

マジか。私の好みを知ってる人からは掛けられたことのない類の言葉じゃないか。続けざまに、

"オレ、何でも見ますよ"

私はバカなので字面通りに受け取ってしまうのだが(周りに文字通り何でも見る超人が溢れているというのも原因だが)、どんな感じなのか試してみよう。

"これどうですか?"

と私が差し出したのは目の前にあったアントン・コービン「コントロール」だ。こんな時にスッと差し出すオススメ映画なんかストックしてないから(しかも私のスタンスとして映画を人に勧めるのは好きじゃないから)私が丁度立っていたドラマコーナーの端に見えた作品を取ったのだ。映画ファンとしては失格だと自覚しているが、こんなにもアドリブに弱いとは…

"うーん、そっすねー"

といって彼はケースを棚に戻した。やはり"何でも"は文字通り受け取ってはいけなかったようだ。

"なんか好きな作品とかあるんですか?それによっちゃ色々好みとか分かると思うんですけど"

今度は私が訊いてみた。

"いや、何でも見ますよ!あんまり知られてない隠れた名作とか知らないっすか?"

おい…さっき戻しちゃったじゃん。私、横で見てたよ?その後短い沈黙の後、ハロルド・ライミス「恋はデジャ・ブ」を差し出した。色んな雑誌などで隠れた名作とされているからだ。しかし、彼はそれも棚に戻した。たった二作で万策尽き果てた私は隣の棚にあったイーライ・クレイグ「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら」を渡した。すると彼はそれも戻した。そして尚も、

"いや、何でも見ますよ!あんまり知られてない隠れた名作とか知らないっすか?"

と言ってくるのだ。流石に参った。近くの店員を呼んで私はさっさと退散した。最初から断っとけば良かったのだが、そういうこと訊かれると映画好きとしては戦ってみたくなるのだよ。許してくれ。別に青年に対して悪い感情は全く無いし、というより単純に悔しかっただけなのだが、他の人なら何を勧めるのか純粋に知りたくなった。
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