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氷上の王、ジョン・カリーのTOTのレビュー・感想・評価

氷上の王、ジョン・カリー(2018年製作の映画)
3.0
76年インスブルック五輪金メダリスト、ジョン・カリーのドキュメンタリー。
バレエを習うことを禁じられ「スポーツ」だからと許されたアイススケートの道へ。
アマチュア選手からプロになり、夢に見たアイスカンパニーを作って舞台に立ちながら、病に倒れた輝ける星。
動画でしか見たことのなかった彼のスケートの美しさがスクリーンで輝く。
孤高の「氷上のバレエ」。
ポジションの美しいこと美しいこと。
前傾にならず、上体の姿勢を真っ直ぐに保ったまま滑走する姿もヨーロピアン選手の典型だなって感じ。
コンパル苦手だったんだね。
‪彼の手紙をナレーションするフレディ・フォックスの声もアクセントもぴったり。
ロンドンやNYのクラブ、パレード、レーガン政権のエイズ対策などの記録映像は、同性愛者だった彼が生きた時代の喜びと困難を示していた。
‪アルバートホールやMETでのショー映像も新鮮。
でも、製氷めっちゃ大変そう。
https://www.royalalberthall.com/about-the-hall/news/2015/december/a-symphony-on-ice-the-royal-albert-halls-largest-ever-ice-rink-and-its-unusual-end/
‪プライベートとスケートの両面を見せて良バランスだったけど、父との関係やアラン・ベイツとの交際に焦点を当てないのはカリーへの敬意か配慮なのか。‬
でも、スケート映像は足りないね。
プロ転向後のバレエ的作品の比重が高く、選手時代の映像と芸術性に対する検証があればもっと面白かったんじゃないかな。
それが無いせいで、自国選手の数少ないメダリストを美しく留めるための太鼓持ち映画っぽさがある。
監督あんまりフィギュア詳しくないっていうか愛着が無いんだろんな。
父とアラン・ベイツについてはこの記事が詳しい(デイリーメールだけど…)。
https://www.dailymail.co.uk/news/article-2706296/Why-Britain-s-skating-golden-boy-died-lonely-bitter-broke-John-Curry-captivated-world-But-new-biography-reveals-bullying-father-wicked-taunts-sexuality-scarred-life.html
試合映像を長めに使ったのは76年の五輪だけで、当時の本人インタビューなど言葉での説明はあっても他選手との比較映像や審判証言が無いため、彼のスケートがいかに革新であったかの多角度的視点は乏しい。
Youtubeで76年の五輪映像を見比べても、カリーも、ライバルであったソ連のコバリョフも魅力あるスケーターであり、FSではカリーもスピンでミスをしている。
審判の腐敗と言う本人の言葉を検証することなく使うのは、「芸術」の説明には都合がいいのかもしれないが、その競技で順位を上げてきたカリーの下にもカリーと同じ思いをしているだろう選手がいることへの注意に欠ける。
‪72年~76年の彼の演技動画を見ても徐々にバレエ的な動きが洗練されて五輪とプロ転向後に劇的に開花したように思えたので、コーチや審判の評価、試合映像や他選手との比較も含めて多角的な考察や検証が欲しかったところ。‬
ちなみに、2014年に「Alone: The Triumph and Tragedy of John Curry」という伝記が出ていてhttps://www.theguardian.com/books/2014/aug/10/john-curry-ice-skater-aids
読まれた方のブログ見ると、とても面白そうな内容。
カンパニーメンバーだったローリー・ニコルの話とか、映画でも触れられていたカリーの完璧主義者な面や機嫌の件にリンクする。
https://note.mu/chisatosan/n/n7d544d0fa827
映画のインタビューで、監督もこの伝記のguardianレビューを読んで映画化のアイデアが沸いたと語っている。
監督はビリー・ジーン・キングの伝記映画「The Legend of Billie Jean King: Battle of the Sexes」の監督でもあるそうで、その撮影時にはキング夫人もカリーのファンで、彼の演技を生で見たことがあると話していたそう。
https://www.theguardian.com/sport/2018/jan/28/john-curry-film-ice-king-skating-star-bittersweet-life-story-icarus

競技からコンパルソリーが無くなり、旧採点から新採点時代に。
2016/17年シーズンからは審判の匿名制を廃止し、名前と国籍が公開されるようになった。
https://www.chunichi.co.jp/ee/feature/figureskating2017/judging_the_judges.html
カリーが金メダルを獲得した1976年インスブルック五輪の参加選手は10ヶ国17選手、2018年平昌五輪は22ヶ国30選手に。
ルールは年々変化し、ブレードも進化して、技の難易度が増していくフィギュアスケート。
様々な国の選手と審判、そしてファンによって支えられているこの競技の現在を、もしカリーが存命なら、どう見るだろうか。

感想が長い。でも仕方ない。フィギュアスケートファンだもの。
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