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バーニング 劇場版のharu3uのネタバレレビュー・内容・結末

バーニング 劇場版(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

原作は村上春樹の短編小説『納屋を焼く』
喪失や迷いといった村上作品カラーはしっかりあって、そこにイ・チャンドン監督の演出が加わり、ゆったりと余白を含んで進んでいくサスペンスが知的でスタイリッシュ。
中盤までちょっと退屈に思わないでもなかったんですが、意味深な言葉や淡々と描れるものの中に重要な鍵が隠されているはずと集中は途切れませんでした。

中でも、序盤にパントマイムのコツを説明するヘミの“そこにみかんがあると思いこむんじゃなくて、みかんがないことを忘れればいいのよ。” という台詞が場面場面で何度も頭をよぎります。
ヘミは何処へ消えたのか、再会したヘミは本当に幼馴染のヘミだったのか。実在が不確かな井戸や、姿を現さない猫等、存在のあいまいさが印象的。

ベンは必要とされないビニールハウスを燃やすというけれど、焼け落ちるビニールハウスは何のメタファーか。伏線の数々は真っ直ぐに、ベンはシリアルキラーだと誘導します。
ジョンスは状況証拠にすらならない脆弱な根拠を並べて彼が犯人だと確信しますが、だからと言って私はあの衝撃のラストを、ジョンスが短絡的で馬鹿だったと一言で片づけたくない。ヘミの不在を忘れてしまえば楽になれるのに、確かに彼女は存在していたと深く心に刻むような決断が切なかったです。

もっともラストシーンで、ベンが“ヘミはどこか”と尋ねた瞬間に、自殺にしろ失踪にしろ、彼女は自分で消えてしまったんだろうなと直感的に私は思いました。
ヘミの部屋に射し込む微かな光は、一瞬で輝きを失ってしまう。陽が沈む前の幻想的なマジックアワー、裸で踊るヘミのシルエットが夕陽に映える描写の美しさ。。
夜が夕暮れを浸食するのに自身も消えてしまう感覚に襲われ、涙を零した彼女。井戸の存在を行方不明だった母親だけが覚えていたのも、失踪説の後押しにならないかな。

自力で気付けなかったのがちょっと残念ですが、監督のインタビューを聞いて、ラストシーンはジョンスが怒りや焦燥を小説に書き昇華したという解釈が一番きれいかなと思いました。
久しぶりに鑑賞後もたくさん考えたので、長文で残しておきます。
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