YukiSano

孤狼の血 LEVEL2のYukiSanoのレビュー・感想・評価

孤狼の血 LEVEL2(2021年製作の映画)
3.7
日本映画界に活を入れた前作を超えるために野獣を解き放った続編。広島死闘篇。

ヤクザというより、ほとんど殺人鬼ジョーカーのような上林という男に広島が滅茶苦茶になっていく様を見つめる怪獣映画のような任侠もの。演じる鈴木亮平の優しい眼差しが悪魔となっているが、時折とても綺麗な眼をしているのが印象的だった。しかし、そんな彼は目玉をえぐり取ることが趣味。

前回の渋さは身を潜め、モンド映画並みに目をえぐりまくるので、段々違う映画に脱線してきたように見える。とにかくコンプライアンスなんてぶっ壊せ❗と言わんばかりにタブーとグロをぶち込んでくるが意外と人情もので在日朝鮮人の哀しみや戦後の広島の闇などが見えてくる社会派でもある。

また、この作品はコロナ禍の中でしっかりと感染対策をしただけでなく、パワハラや超過労働に対して徹底した姿勢で挑んだ優等生的な映画制作現場だったと伝えられている。そこで鈴木亮平は舎弟役の俳優達と本当に仲良くなるように場を持ち、現場内の空気を盛り上げたそうだ。

このような任侠ものには、これまでの日本映画界では考えられないような優等生的なエピソードである。しかし、そのせいなのか、とことんヤバイことをしているはずなのに何故かヤバさを前作より感じないのだ。前作は心から本気で日本映画界に熱い血を甦らせようとした気迫をヒリヒリと感じた。だけど、今回もその気合いは感じるのに何かが足りなくも思う。それはコロナ禍だからなのか、現場が優等生すぎたからなのか、役所浩二がいないからなのか…もちろん鈴木は素晴らしい。恐らく今年の助演賞は総ナメするだろう。

日本映画研究家の春日太一によれば、かつての東映ヤクザ映画の俳優たちは本気で自分達もヤクザのように振る舞い、挙げ句の果てには派閥の組を作って闘争を繰り広げていたそうだ。あまりに役に近付きすぎて殆どヤクザになることが当たり前だった。

現代では迷惑極まりなく、信じられないエピソードだが、そのリアリティーが名作を生んでいったことも事実。今回のlevel2は前作超えをするためにモンド映画、怪獣映画、香港ノワール、韓国ノワール、そして東映ヤクザの伝統など全ての味わいを混ぜ込んで、総力戦で挑んだことが分かった。凄いことだし、感動もした。

しかし同時に、もう日本映画界には狼は本当にいなくなったのだと痛感させられた。前作は懐かしい臭いを思い出させてくれたけど、本作からは本気で今現在に通底する任侠や仁義または暴力を描いて欲しかったのかもしれない。もう、かつてのノスタルジーは必要ない。今のこの時代の暴力を描かなければ真の狼にはなれないのではなかろうか?奇しくもこの作品の公開直前に「仁義なき戦い 広島死闘篇」の千葉真一さんが亡くなった。最後の狼を失って、日本映画界には何が残っているのか…?そんな気持ちに陥ってしまった。それでも3作目を待とう。絶滅した狼のその後を見たい気もする。



追伸:白石監督の仮面ライダーBLACK SANは、この日岡と上林のような関係で描くのなら本気で楽しみなので、そこを超期待しています…
YukiSano

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