このレビューはネタバレを含みます
何だこれ思ってたのと全然違ったけれどめちゃくちゃ好み過ぎる。最近観た映画の中で一番笑ったかも(コメディではありません)。こういうゲーム的要素というか、序盤の一部屋ずつ開けては、物を手に入れて装備増やしながら進んで行く感じとかたまらない(進むと言ってもほぼワンシチュエーション)し、それを北欧の加瀬亮こと(勝手に言ってる)アンデルシュ・ダニエルセン・リーが主演で、ゴルシフテ・ファラハニや、ドニ・ラヴァンまで登場するって何盛りですか。でも作品のクオリティを左右しているのは間違いなくゾンビよね。動きは俊敏だけれど、ちゃんとゾンビしてる。それでいて何故だか可笑しいし、恐ろしさより哀愁を帯びているのよ。
以下ネタバレを含みます。
死体を粗末にできないアンデルシュ・ダニエルセン・リー。猫と友達になりたいアンデルシュ・ダニエルセン・リー。死に切れずに爆笑するアンデルシュ・ダニエルセン・リー。というか、彼ミュージシャンでもあるのか。『わたしは最悪。』でもエアドラムやってたし。調べてみると、俳優、医師、ミュージシャンと色々な肩書きがあるようで。ということは、あのありもので演奏するシーンも彼のアイデアなのかも。そう思うと凄く貴重なシーン。お前となら友達になれると思うっていいながら、猫に逃げられるの悲しかったけれどそこも笑ってしまった。もうね、つい役だけでなく、俳優としても観てしまうし、これは彼のファンなら見て損はないというか、ファンのための映画なのでは。ありがとうございます。
これはつまり、自分の中から抜け出せない男、殻に籠り、他者とかかわれない男の話なのだろう。だから、正確にはゾンビ映画ではなく、それくらい共生が困難な人々といる世界、の話(サムの感覚的に)。外の世界を恐れていつまでも部屋に籠城したり、カセットテープに固執するのも、新しいものへと移行、挑戦できない本人の性格なのかなと。親と出掛けるのを嫌がるサム少年の声がカセットテープに残されていたのは、そうやって昔から多くのことを拒絶して来た過去がある、それが病気なのかも、わからないけれど、そういう何らかの症状に悩んでいる、ということなのかもしれない。人によっては人とかかわり合い、触れ合うことが、とにかく苦手という人もいると思うし、わたしもどちらかと言えばそちらよりなので、気持ちはわかってしまう。だから、最初の居心地の悪そうなパーティーと、それ以降のゾンビの世界は、彼にとっては変わらないものなのだと思う。でも、あるところを境にして、人間関係って取り戻せなくなる、そんな気がしている。それが年齢によるものなのか、態度によるものなのか。環境によるものなのか。冒頭の元彼女とは、あまり相性が良くなさそうにも見えたけれど、どうだろう。何かのきっかけで交際を始めたものの…そんな感じにも見える。きっとそれまでにも、サムに好意を寄せていた相手はいたはずなのに、これも何かが始まる前にサム自身が拒絶していたのだろう。扉の向こうにいるサラをいきなり銃で撃ったように。その後、サムはサラとの時間を過ごすことになるのだけれど、全ては孤独きわまったサムの妄想だったとわかるあのシーンには胸が苦しくなった。でもそれは、まだ孤独を感じることができるという明るい兆しでもあって。ラスト、ひとつ行動を起こしたサムの晴れやかな表情。たったひとつ。されど、そのひとつが世界を変える。サムはサラがそうやって来たように、そこから世界を切り開いて行くに違いない。