わたしは日々、遠くまで見渡す余裕もないし、通り過ぎているという実感もない、考えてみれば、はじまりは知らないうちに、おわりはじっと黙っていたってやって来るのだから、わたしにできることと言ったら、年をとる>>続きを読む
あまりにも彼女たちとの距離が近くて息が詰まるというか、胸が詰まるというか、それは気まずさや緊張ではなくて、目に見えて、見えないものの多さと、見えているものへの苛立ち、自然と掛かり続ける負荷に対しての、>>続きを読む
あらゆる製品には注意事項というものがある。潜在的なリスクの可能性がある以上、どれだけ細かなことでも、過剰だと言われようとも、記しておかなくてはならないのは、リスクマネジメントが不可欠な時代になったから>>続きを読む
これはジム・クロウ法やKKKと言った、黒人を差別し不平等に扱う社会や暴力で排除しようとする団体が当然のようにあった頃の話なのだけれど、それって言葉にしてしまえば今とそう変わらないのでは、とも思ってしま>>続きを読む
わたしたちは多分ひとりとして、選べるものを選ぶことから始められるスタート地点に立ったことがないのだろうし、これから先の、先の先までも、きっとそれはもうそうなんだろうと思う。このかつて革命家だった男がそ>>続きを読む
このレビューはネタバレを含みます
「ファーストキス観た?、面白かったよ」まだ振り向いてもいないわたしに向かってその人は言った。その人は、職場で唯一映画の話をしてもいい人。できる人ではなく、してもいい人、というのは大きな違いで、その大き>>続きを読む
この映画はフランシス・ベイコンの私生活(創作過程)へとアプローチしたもので、そのひとつの始まりと終わりが克明に再現されている。自叙伝などの映像化というわけではなさそうなので、ここには本人の記憶でもなけ>>続きを読む
ここに描かれているものが、人によっては酷く歪に見えたり、思わず拒否反応を起こしてしまうようなものだったとしても、それはあることなのだろうと思うし、わたしもこの迎合という建前によって、均衡が保たれてしま>>続きを読む
もうわたしたちはこれを笑い飛ばしてもいいのでしょうか。わたしたちですらそうなのだから、生まれてもいなかった人から見れば、さぞ滑稽に見えるであろう行動の数々を。多くの命が失われ、多くの人が苦しむこととな>>続きを読む
わたしたちは何をもって、信じるに値するものと、しないものを見極めて生きて行くのだろうか。わたしは多分、信じられる、に振り分けるものが少ない方だと思う。それは愛だとか、絆だとか、そういうものの強弱なのか>>続きを読む
この物語が言うところのパラドックスを存分に意識したような映画で、忘れた頃に、あれは本作が驚異の刺激に甘えた即効性のある娯楽作品ではないということを暗示していたのかもしれない。少女は奪われた自由とモラト>>続きを読む
ペパーミントソーダ、もうこのタイトルに尽きる。子供は至って真面目で、生きることに真っ直ぐで、だから、大人の真似事を得意げに披露するし、悪戯をして反応を待ってみたり、時には度を越した行動をとったりもする>>続きを読む
映画はひかりの数だけある人生の名を借り、わたしたちがすくい損ねた、形容される然るべき意味のひとつひとつを、いつか、あなた以外の、誰かの言葉を借りて知る時が来てもいいようにと、静かに物語る。世界は映像で>>続きを読む
人類が初めて藍に魅せられた時から、刻一刻として同じでない青の鼓動に、今なお、聞き耳を立てて、予測のつかない時は待ち、思い通りにならないことには手間をかけ、全うする生命に労を惜しまない人たちがいる。藍は>>続きを読む
自身のブランドの展開、パリ・オートクチュールへの参加など、今後もさらなる活躍が期待されるデザイナー中里唯馬。彼の目指すスタイルは、伝統と革新の融合、技術の粋を集めた一点物へのこだわりと、出来得る限り環>>続きを読む
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…これは真髄。核心を突くラスト。
これでもかと丁寧に描かれる分かり合えなさ。本当、一生分かり合えることはないと思う。それでも小さな嘘をつき続けて、耐えて、堪えて、それ以外のわずかな時間で自らを保ち、人>>続きを読む
わたしがこれまでに鑑賞して来たイランの監督作品は、些細な拗れが決定的な不和として浮かび上がる過程、みたいなものを軸とした、古典的で、普遍性のある作品が多いなという印象だったのだけれど、モハマド・ラスロ>>続きを読む
目には見えないとされているものが見えてしまったら、世界はどうなってしまうのだろうか。並び合っていたものが、そうなれなくなってしまうこと、それに見合わないほどの時間を手放すこと、人はどちらに胸を痛めるの>>続きを読む
シリーズの原点。本作がなければこのシリーズや他の影響を受けた作品は生まれていなかったかもしれないと考えれば、改めて重要な作品だったなと。時に必要以上にブレにブレるカメラワーク。この臨場感、疾走感は、ダ>>続きを読む
この道は不運にも、行き先を知るものが切り拓いたものではなく、今となっては気の迷い、未だに血は乾くことがない、正義から来る習わしの負債、生態系は共存をあやまり、欲は夢と呼べなくなるまでに想像力を失った、>>続きを読む
断片的な内容や強い印象は残っているのにタイトルが思い出せない映画、という生き別れみたいな映画がいくつかある。本作はまさにその一本で、序盤の草原を駆け抜けるシーンあたりでそれに気が付いてからは、記憶の答>>続きを読む
ふきだしを必要としない時間を、人よりも多く必要とする彼らの不得手さ、それは多分わたしもそうなのだろうと。言葉にはできないことを、言葉に託そうとするから、言葉はいつも困ってしまい、声にしなければいい、そ>>続きを読む
このレビューはネタバレを含みます
『X』を観ていれば、その分本作の自由度は狭まり、緊張感が少しばかり薄まってしまうのも仕方のないこと。逆に本作を先に観ていれば、どのような印象になっていたのか気になる。ただ、だからこそ、これをただのコメ>>続きを読む
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これもフェミニズムホラーという分類に入るのだろうか。わたしの中では『悪魔が見ている』以来のそれだったかもしれない。自分を地獄に落とす相手は、いつだって近くにいるし、それがどれだけの安心感と思しきものを>>続きを読む
よくある話なのかもしれないけれど、誰もがこんな風には撮れないのではと思う。短編でありながら、遥かにそれ以上の時間の広がりを感じる佳作。みんなちょっとずつ最低で、ちょっとずつ最高で。誰かや何かの様子を見>>続きを読む
感情の伴わない、よりニュートラルな状態で、感傷を解体していくことで、それがただのラベルであったことに拍子抜けしてしまったりもするけれど、冷めていくも、覚めていくも、変化を必要としていることの表れだと思>>続きを読む
光の底に漂う彼女の姿が、いつまで経っても揺らいで見える。埋めるつもりだった空白の、知ってしまえば多くのことを知らないままに、いつその空白を埋めなければならなくなるのかと気が気ではないその心は、ひと時で>>続きを読む
期待や不安のようでいて、こんなにも目に見えてしまう、何も隠し通せない約束をしたに過ぎないのだと、耳から離れることのない誰かの声が、右からひとつ燃え、ふたつ燃えては、またひとつとなり、あなたの声までも灰>>続きを読む
微笑みが、ある生涯に一編の詩を書かせることがあるように、一生分の拙さを隠さないその一編の死は、それ以外を奪われ、異国の息づかいで語り継がれるうちに、偶然にもお伽話となったのだろう。そこに誤訳や経年変化>>続きを読む
美しい風景も、歩いてみればこうも険しい。表層からは読み取ることの難しい問題が、その人にも、その場所にもあって、そういう目には見えない、声としては聞こえない、やわらかな弾圧と抑制される多くの人生が、白夜>>続きを読む
小さい箱で舞台でも観てるんじゃないかというスケールで繰り広げられるSF超家族愛映画。ミニマルの良さと、不思議な空気感、何なんですかね一体。緊張感とシュールさのチグハグな緩急に揺さぶられて、そのうち伝統>>続きを読む
嘘がないからこそ、痛みも恨めしさも、その根拠を欺くことはできないし、この舞台を固める無数の足跡を見れば、すべてを言葉にしなくても、伝わるものがある。この世には、ドラッグにも似た陰謀論や、芯のない果実に>>続きを読む
放たれた物体が、弧を描き、落下するまでの時間。この物語は、その繰り返される行動と結果が繋ぎ止めた、ひとつの途切れのない放物線のようでもある。さらに、刹那に取り憑かれて行く者の向こう見ずな執着によって、>>続きを読む
そこにはわたしがいて、途中からはずっとこっちを見ていた。わかっていた。でも目を合わせられなかった。そんな居心地の悪さと当事者としての気持ちがフラッシュバックしていた。つまり、誰もが無関係ではいられない>>続きを読む
何者でもない彼女に付けられた、その名と価値が、彼女を一色の球体のように、どこから見ても彼女だとわからせ、彼女自身をそうたらしめている。生きていることを実感させる、目覚めるたびに忘れなければならない、う>>続きを読む
このレビューはネタバレを含みます
この物語が単なるフィクションではないと、今のわたしたちは容易に想像できてしまう。だからこそ、これは特別なんだよ。もう最初からずっとスターを夢見るノエミにカメラが密着し続けてるだけ、と言えばだけで、終始>>続きを読む