jonajona

銃のjonajonaのレビュー・感想・評価

(2018年製作の映画)
4.0
『掏摸』が世界的にも評価された日本に留まらない純文学作家、中村文則氏の小説『銃』を映画化した本作。
恥ずかしながら中村さんの小説は掏摸と王国と悪意の手記しか読んだことなくて本原作は未読。しかしテイストは間違いなく大好きなので本当は劇場で見たかったやつ…

全く商業的なエンタメ性とは無縁の文学的な鬱屈した主人公の繊細な心情描写。かつそれがヒロイックでニヒリズム丸出しという青臭さ。さらにはほぼ全編モノクロという突っぱね具合。売れる売れないだけで映画を撮らないその気概や良し。物語を物語るんだという愛を感じるいい作品でした。

主演の村上虹郎君の繊細な声質と表情が素晴らしかった。役者陣がみなとても魅力的で文学的なセリフ回しの臭さも味わい深く感じれました。
小南響さんの脱ぎっぷりが相変わらずエロくて最高だし、広瀬アリスの声と表情の艶っぽさもヒロインとしての存在感があったし、何よりやはり主人公を追い詰める刑事役のリリーフランキーが最高に渋い。
おそらく刑事コロンボを意識してるであろう間抜けなキャラを演じる老獪なベテラン臭のギラつき。そして全てを見抜いた上で成り行きの暴走を出来ることなら止めたいという慈しみが共存した複雑な人間像がほんとに見事。近年見た刑事の中で1番渋かったかもしれない。

ところで文学的、と感じる物語ってどんなものだろうと少し考えてみた。中村文則さんの作品はいつも『純文学』と感じる。僕が考えるには、モノローグなどでひたすらに己の孤独と向き合って言葉を発し続けてるのに、ラストまで一向に本心に辿り着けない物語が文学なのではと感じる。
いや、ちがうかもしれませんが…笑

彼はひたすらに銃を持った感慨、変化を映像的に提供してくれるが、彼の語る言葉は彼自身には向いていなくて外部(銃)へ投射して放たれる。その結果いくらか難解にはなりつつも、彼のおかれる苦難を知ることは出来るが彼自身がそこにたどりつかない。避けて回る。その道がラストで結実するか、あるいはラストの彼の置かれる状況事態が大きなテーマを浮き彫りにする最後のひとピースになったりする。
そういう意味では皆さんお解りのとおり、賢げなことを書こうとして文章がよく分からないものになってると気付きつつ、それでも己のアホに気付くのを恐れて文章を打ち込み続けるこの私もまた純文学である。

ラストで色合いがカラーになる時に初めて全編白黒を選択した意味がわかり、その効果が遺憾なく発揮されてなんとも言えない味わいを残す。ただの荒れた青春の一コマでは片付けない物語のテーマへの誠実な向き合い方に、好き嫌いは分かれるだろうが断然好き。
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